
近年、日差しの強い日が増え、遮光機能を備えた傘への需要がますます高まっています。それに伴い、「遮光率100%」や「完全遮光」といった言葉を目にする機会も多くなりました。
今や傘の重要な機能となった「遮光性」。その性能を正しく理解することは、製品を企画・販売する方にとっても、日々その傘を使う方にとっても非常に重要です。
本ブログでは、公的な遮光性試験の概要から、その結果をどう解釈すればよいのか、そして「100%」という言葉が持つ本当の意味まで、専門的な視点から詳しく解説します。
※2025年7月15日:伝えたい主旨は変更せず、記事内容を修正しました
「遮光率」は何で測る?―公的試験は「生地」のみ―
まず、私たちが「遮光率」を語る際の基準となるのが、JIS規格(日本産業規格)に定められたJIS L 1055 A法という試験です。これは、生地に強力な光を照射し、透過する光の量を測定することで「遮光率」を算出します。
この試験で重要なポイントは、測定対象はあくまで「生地」単体の性能であるという点です。 そして、さらに重要なこととして、傘という「製品」全体の遮光性能を公的に測定・証明する方法は、現時点では確立されていません。
<JIS L 1055 A法の概要>
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光源の照度:「10万ルクス」
これは真夏の昼間ほどの非常に強い光を想定した基準値です。
そして「遮光率100%」とは、この非常に強い光を当てた際に、人間の目では透過光を感知できなかったという試験結果です。しかし、これは「どんな光も通さない」という意味ではありません。例えば、強力なLED懐中電灯などを生地に密着させて照らすと、生地がわずかに光を通しているように見える場合があります。
一般的にイメージしがちな「どんな光も絶対に透過しない」という意味とは少し異なる場合があることを、まずご理解いただく必要があります。

なぜ「生地」と「製品」で話が分かれるのか?
「生地」の技術は進歩しており、JIS試験で遮光率100%を達成する生地を作ることは、現在ではそれほど難しいことではなくなりました。
しかし、その高性能な生地を使っても、「傘」という製品になると話は変わってきます。
「傘」としての“完全遮光”が難しい理由
遮光率100%の生地を使っても、「傘という製品全体で、外部の光を100%完全にシャットアウトすること」が現実的に難しいのは、傘が針と糸で生地を縫い合わせて作る「縫製品」だからです。
傘は、複数の三角形の生地パーツをミシンで繋ぎ合わせて作られます。どんなに高密度な生地であっても、ミシンの針が生地を貫通する以上、そこには微細な「針穴」が必ず生じます。この無数の針穴から、太陽光が点状に漏れる可能性があるのです。
このため、「製品としての傘」が体感として完全な暗闇を作り出すことは非常に困難なのです。
一般的に「遮光率100%」と表示されている商品は、あくまで「生地」の試験結果に基づくものであり、決して誇大な表現というわけではありません。
【補足】業界団体による「遮光率100%」表示のルール
日本の洋傘業界団体であるJUPA(日本洋傘振興協議会)では、JIS規格の試験で生地の遮光率が100%と確認された場合に限り、注意書き(※)を併記することを条件に、「遮光率100%」と表示することを認めています。一方で、「完全遮光」という表現は使用しないルールとなっています。
(※製品全体ではなく、生地の性能値であることなどを示す注意書き)
まとめ:遮光率100%の正しい理解のために
最後に、今回のポイントを整理します。
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公的な試験方法は「生地」に対してのみで、「製品」を測る基準はまだありません。
現在「遮光率」として表示されている数値は、すべて生地単体の性能値です。 -
「遮光率100%」は、特定の条件下での「生地」の性能です。
- JIS規格で定められた「10万ルクス(真夏の昼間相当)」の光を当てた際の試験結果であり、あらゆる光を遮ることを保証するものではありません。
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傘は「縫製品」であるため、微細な針穴から光が漏れる可能性があります。
そのため、「傘」として完全な暗闇を作ることは非常に困難です。
私たちが「遮光率100%」という表示を見る際に大切なのは、この言葉が持つ本当の意味を正しく理解することです。「どんな状況でも光を一切通さない」という魔法の言葉ではなく、「JIS規格の試験をクリアした、非常に遮光性の高い生地である」という品質の証として捉えるのが適切と言えるでしょう。