人気の「シルバー生地日傘」、その撥水性は?傘メーカーが語るウラガワの話

近年、日傘のトレンドとして大きな注目を集めている「シルバー生地」の傘。ギラギラと太陽光を反射するその見た目から、「涼しそう」「遮熱効果が高そう」というイメージで人気が急上昇しています。

私たちアンベルにも、「シルバー生地の傘は発売しないのですか?」といったお問い合わせを何件もいただくようになりました。(現在、皆様のご期待に応えられるよう鋭意企画を検討中です!)

 

しかし、その一方で、傘メーカーの視点から見ると、このシルバー生地にはお客様にぜひ知っておいていただきたい、大切な特性があります。それは「撥水性が低いこと」についてです。

今回は、このシルバー生地の傘の構造の秘密から、メリット、そしてあまり知られていないデメリットまで、プロの視点で正直に、そして詳しく解説していきます。

シルバー生地の正体は「裏側のコーティング」

まず、あのキラキラとしたシルバー色は、銀色の糸を織って作られているわけではありません。

傘の生地は、糸で織られた布(基布)に、様々な機能を持たせるためのコーティングを施して作られます。シルバー生地の正体は、この「PU(ポリウレタン)コーティング」や「アクリルコーティング」といった加工技術で、生地の裏側に銀色の層を作っているものなのです。

 

そして、ここが最も重要なポイントなのですが、このシルバーコーティングは本来、生地の“裏側”で防水性遮光性を高めるための加工であり、表に出すことを前提としていませんでした。

私の知る限りでは、今から30年ほど前、そのユニークな見た目から、このコーティング面をあえて表側にしたゴルフ傘が登場しました。主に日傘として使われるゴルフ傘では、雨天時の撥水性はそこまで重視されなかったため、この斬新なアイデアが受け入れられたのです。

【本題】シルバー生地の傘は、なぜ撥水性が低いのか?

それでは、なぜシルバー生地の傘は撥水性が低いのでしょうか。その答えは、一般的な傘生地の基本構造にあります。

通常の機能性傘の生地は、以下のような役割分担になっています。

  • 生地の表側:雨粒を玉のように弾くための「撥水加工」が施されている。

  • 生地の裏側:水が染み込むのを防ぐための「防水・遮光コーティング」が施されている。

つまり、傘生地は「表で弾き、裏で防ぐ」という二段構えで雨から私たちを守っているのです。

 

これを踏まえてシルバー生地の傘を見てみると、本来は裏側にあるべき「防水・遮光コーティング(シルバー面)」が、デザインのために表側に来ています。ということは、水を弾く役割の「撥水加工」が施された面は、内側を向いてしまっているのです。

そのため、原理的に、現在流通しているシルバー生地の傘には、雨粒を玉のように弾く「撥水性」がほとんどない、というのが正直なところです。もちろん、技術は日々進歩していますので、将来的にはこの課題をクリアした画期的なシルバー生地が登場する可能性も否定できません。

雨粒を玉のように弾く「撥水性」
雨粒を玉のように弾く「撥水性」

「撥水性がないのに傘として使えるの?」

「撥水性がないなら雨の日は使えないのでは?」と心配になりますよね。ご安心ください。雨漏りするわけではありません。

ここで参考になるのが「ビニール傘」です。実は、あのビニールのシート自体にも、水を玉のように弾く「撥水性」はほとんどありません。しかし、素材自体が水を通さない「防水性」に優れているため、傘として問題なく使えます。

 

シルバー生地の傘もこれと同じで、防水コーティングが施されているため雨を防ぐことはできます。ただし、撥水性がないことによるデメリットは存在します。それは、「水切れが悪い」ということです。

使用後に傘を閉じても、弾かれなかった水滴が生地に広く残ってしまい、乾きにくいのです。

メーカーとして知っておくべきこと、伝えるべきこと

最近は、撥水等級などのスペック競争が激化していますね。実際に、シルバー生地でありながら撥水性を謳った製品も市場で見かけることがあります。

しかし、思い出していただきたいのが生地の構造です。仮に最高等級の撥水性を持つ生地を使ったとしても、その撥水面を裏側にしてシルバー面を表にして販売するのでは、本来の性能を発揮することはできません。製品によっては、撥水性試験で3級程度に到達するケースもあるかもしれませんが、一般的にイメージされるような高い撥水性を期待するのは難しいのが実情です。

 

もしそのような製品を企画・販売するのであれば、その性能の実態や生地の構造について注記などで誠実に表示することが、お客様への信頼に繋がるのではないでしょうか。

まとめ

最後に、シルバー生地の傘のポイントを整理します。

  • メリット:シルバーコーティングによる高い遮熱効果が期待できる。

  • デメリット:構造上、撥水性がほとんどなく、水切れが悪い。

日差しをしっかり防ぎたい日傘としての性能は非常に高い一方で、雨の日に使うと水切れの悪さが気になるかもしれません。

 

このメリットとデメリットを正しく理解し、主に日傘として、雨の日は補助的に、といった形で特性に合った使い方をするのがおすすめです。私たちアンベルも、こうした特性をすべて踏まえた上で、お客様に心から満足していただけるような製品を、これからも検討してまいります。