
近年、夏の厳しい暑さ対策として、日傘の重要性がますます高まっています。特に注目されているのが「遮熱」機能を備えた日傘です。本記事では、アンベル株式会社の視点から、この「遮熱」機能について、その効果、性能評価、そして今後の技術進化の展望まで、詳しく解説いたします。一般消費者の皆様が日傘を選ばれる際の参考となり、また、遮熱という技術にご関心をお持ちの皆様にとって、少しでも深い情報提供ができれば幸いです。
日傘・晴雨兼用傘における「遮熱」機能とは何か?
日傘や晴雨兼用傘が備える「遮熱」機能とは、太陽光に含まれる熱エネルギー、特に近赤外線を効果的に反射または吸収することによって、傘生地自体の温度上昇を抑制し、結果として傘の下の空間温度の上昇を和らげる技術のことを指します。
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遮熱の原理: 太陽光には、目に見える可視光線のほかに、紫外線や赤外線といった目に見えない光線も含まれています。このうち、物質に吸収されると熱エネルギーに変わる性質が強いのが赤外線、特に近赤外線です。遮熱機能を持つ生地は、この近赤外線を効率よくカットするために、以下のような仕組みが用いられています。
- コーティング技術: 生地表面に、遮熱効果を持つ特殊なポリウレタン樹脂などを主成分とするコーティング剤を塗布またはラミネート加工する手法が一般的です。このコーティング層が太陽光中の赤外線を効果的に反射したり、吸収・散乱させたりすることで、生地への熱の伝わりを抑制します。
- 繊維への練り込み技術: 遮熱効果のある粒子などを、繊維の製造段階で原料ポリマーに練り込む方法です。これにより、生地自体が遮熱性能を持つため、コーティングの剥離による性能低下の心配が少なく、効果が長持ちしやすい特長があります。
- 特殊フィルム・多層構造: 近年では、特定の波長の光を選択的に反射・吸収する特殊なフィルムを生地にラミネートしたり、異なる光学特性を持つ素材を積層させた多層構造フィルムを用いたりすることで、より高い遮熱効果と軽量化を両立させる技術も開発されています。
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遮熱と遮光の違い: 日傘の機能としてよく聞かれる「遮光」と「遮熱」は、それぞれ太陽光の異なる成分に注目した機能です。
- 遮光: 主に可視光線(目に見える光)を遮ることで、眩しさを軽減し、傘の下を涼しい影にする効果があります。「遮光率〇%」といった表示がこれにあたり、この数値が高いほど傘の下は暗くなります。
- 遮熱: 主に赤外線(目に見えない熱線)を遮ることで、熱エネルギーの傘生地への透過や吸収を抑え、傘生地や傘下の温度上昇を抑制する効果があります。 ここで重要なのは、近年の高機能な日傘、特にアンベル株式会社が扱うような製品の多くは、生地の裏面に遮光性および遮熱性を高めるための特殊なコーティング(例:ポリウレタンコーティングなど)やフィルムラミネート加工が施されているという点です。 このような加工が施された日傘においては、可視光線をしっかりと遮断する高い遮光性を持つものは、同時に太陽光に含まれる熱線(赤外線)も効果的に遮断するように設計されているのが一般的です。つまり、生地表面の色に関わらず、裏側の加工によって高い遮光性を実現している日傘は、高い遮熱効果も期待できると考えてよいでしょう。 もちろん、より厳密には使用される素材や加工技術によって遮熱性能に差は生じますが、一般消費者の皆様が日傘を選ばれる際の一つの目安として、「遮光率の高い日傘(特に裏面加工ありのもの)は、遮熱効果も高い傾向にある」とご理解いただければと存じます。 さらに補足として、生地の表面色と遮熱効果の一般的な関係について触れておきます。一般的に、淡色系の生地表面は太陽光を反射しやすく、濃色系の生地表面は太陽光を吸収しやすいという性質があります。このため、他の条件が全く同じであれば、淡色系の生地の方が濃色系の生地に比べて遮熱効果がやや高くなる傾向があります。 これは、生地表面での光の反射と吸収という基本的な物理特性に起因するものです。近年の高機能日傘では、前述した裏面のコーティングやフィルム加工がこの表面色の影響を大幅にカバーし、濃色系の日傘でも十分に高い遮熱性能を発揮できるように設計されています。しかし、わずかながらでもより高い遮熱効果を期待される場合や、傘を閉じて持ち運ぶ際に傘生地自体が熱を持ちにくいことを重視される場合には、生地の表面色として淡色系を選択することも一つの有効な考え方と言えるでしょう。


2. 遮熱の効果とは?~なぜ涼しく感じるのか~
遮熱機能を備えた日傘を使用することで、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。
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体感温度への影響: 遮熱傘の最大の効果は、傘の下の「涼しさ」です。遮熱加工が施された傘は、太陽からの熱線を効果的にカットするため、傘をさしていない状態や、遮熱機能のない傘をさしている状態と比較して、頭部周辺の温度上昇が大幅に抑制されます。 一般的に、遮熱性の高い日傘を使用した場合、頭部の温度上昇を10℃以上抑制するといった試験結果も報告されています(使用環境や製品の性能により異なります)。これにより、直射日光によるジリジリとした暑さを大幅に軽減し、体感温度を下げることが期待できます。特に頭部の温度上昇を抑えることは、夏季の熱中症予防という観点からも非常に重要です。
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生地自体の温度上昇抑制: 遮熱加工された生地は、太陽光を照射された際の生地自体の温度上昇が、未加工の生地に比べて低く抑えられます。例えば、黒色の遮熱加工なしの生地と、同色の遮熱加工ありの生地を炎天下で比較すると、遮熱加工ありの生地の方が表面温度が数℃から10数℃低いというデータもあります。 傘生地の温度が低いということは、傘から人体へ放射される熱(輻射熱)も少なくなることを意味します。これにより、傘下にいる人が感じる暑さがさらに軽減されるのです。サーモグラフィーカメラで撮影すると、その温度差は一目瞭然となります。


3. 遮熱性能の評価と「遮熱率」のランク
消費者が遮熱傘を選ぶ際、その性能を客観的に知るための指標が求められます。
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遮熱性評価試験の方法: 傘生地の遮熱性能は、客観的なデータに基づいて評価されます。一般的には、太陽光に見立てたランプの熱を傘生地がどれだけ遮ることができるか(具体的には、生地の温度上昇をどれだけ抑えられるか)を測定する試験や、生地が太陽光に含まれる赤外線(熱線)をどれだけ反射したりカットしたりできるかを専門的な測定機器を用いて分析する試験などが行われています。 これらの試験は、公的な規格(例えば、繊維製品の遮熱性評価方法を定めたJIS規格など)に準拠したり、それを参考にしたりして実施されることが多く、製品に表示される遮熱効果の科学的な根拠となっています。
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「遮熱率」の考え方と業界基準: 「遮熱率」や「遮熱効果」といった言葉で示される傘の遮熱性能ですが、その表示基準や測定方法は一つだけではなく、この点が消費者の皆様にとって少し分かりにくい部分かもしれません。 まず、業界団体として日本洋傘振興協議会(JUPA)は、消費者の皆様が安心して遮熱傘を選べるようにするための一つの目安となる基準を設けています。JUPAでは、主に生地単体の遮熱性能を評価するための指標(従来「遮熱指数」と呼ばれていましたが、近年では「遮熱率」という表現も使われるようになっています)を定めており、この遮熱効果の度合いが35%以上である場合に、その製品に「遮熱効果がある」旨の表示や、JUPAが定める「遮熱・遮光マーク」を品質ラベルなどに表示することを認めています。 これは、基準となるものと比較して、傘生地がどれだけ熱(温度上昇)を抑えることができたかを示すものです。
一方で、製品の検査を行う第三者機関によっては、異なるアプローチで遮熱性能を評価している場合があります。例えば、QTEC(一般財団法人 日本繊維製品品質技術センター)などでは、傘生地単体の評価(JIS L 1951繊維製品の遮熱性評価方法に準拠した試験など)に加え、傘として組み立てられた製品そのものに対して太陽光に見立てた光を照射し、傘の下の温度上昇抑制効果を測定する「製品試験」としての評価方法(通称「QTEC法」などと呼ばれることもあります)も行っています。 このような製品試験では、「遮熱効果率(%)」といった形で結果が示されることがあり、より実使用に近い状態での性能評価と捉えることもできます。
このように、
- JUPAが定める生地の遮熱性基準(遮熱率/遮熱指数 35%以上など)
- QTECなどが行う傘製品としての遮熱効果率の評価(製品試験)
- 生地単体の遮熱性試験(JIS L 1951などに基づき、各検査機関が実施)
- その他、各メーカーが独自に行う近赤外線カット率や特定の環境下での温度低下データ
など、様々な評価方法や指標が存在するため、「遮熱率」という同じような言葉で表示されていても、その算出根拠(生地の試験か、製品としての試験か)や試験機関、試験条件によって数値が異なる場合があります。これにより、「遮熱率」の表示にバラつきが見られることがあるのは事実であり、消費者の皆様が製品を比較検討される際には十分な注意が必要です。
したがって、単に「遮熱率〇〇%」という数値だけを見るのではなく、それがどのような試験方法に基づいた数値なのか(例えば、JUPA基準適合、QTEC法による製品評価、生地のJIS試験結果など)、また、どのような指標(遮熱率、遮熱指数、遮熱効果率など)で示されているのかという点にもご注目いただくことが、製品の性能を正しく理解し比較する上で非常に重要となります。アンベル株式会社としても、お客様に誤解のない正確な情報提供を常に心がけてまいります。

4. 今後の遮熱技術はどう進化するのか?~未来の展望~
遮熱技術は、より快適で高機能な日傘を実現するために、今後も進化を続けると考えられます。
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より高性能な遮熱素材の開発:
- 高反射・高放熱素材: 現在主流の反射型に加え、吸収した熱を効率的に外部へ放射する素材や、太陽光の幅広い波長域(紫外線・可視光線・近赤外線)をコントロールできるような、より高度な光学特性を持つ素材の開発が進むでしょう。ナノテクノロジーを応用した新規粒子や、特定の波長を選択的に透過・反射するフォトニック結晶のような構造色を利用した素材も研究されています。
- 耐久性・軽量性の向上: 遮熱効果を長期間維持できる耐久性、そして傘としての使いやすさを左右する軽量性は常に求められる要素です。薄膜化技術や繊維自体の改良により、より薄く、軽く、かつ高い遮熱性能を持つ素材が期待されます。
- 色の制約の克服: 従来、高い遮熱効果を得るためには白色や淡色系が有利とされてきましたが、濃色系でも高い遮熱性能を発揮できる顔料やコーティング技術の開発が進むことで、デザインの自由度も向上するでしょう。
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快適性の向上と多機能化:
- 通気性との両立: 遮熱コーティングは生地の通気性を損なう場合がありましたが、これを改善し、高い遮熱性と通気性を両立させる技術が求められます。例えば、微細な孔構造を持つ多孔質フィルムや、特殊な織り構造によって通気性を確保しつつ遮熱効果を高める試みが考えられます。
- スマートテキスタイルとの融合: 温度や湿度、日差しの強さに応じて遮熱性能が変化するような、環境応答型のスマートテキスタイルの開発も進むかもしれません。例えば、特定の温度以上になると色が変わってより多くの熱線を反射する、あるいは通気性が向上するといった機能です。
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持続可能性と遮熱技術: 環境負荷の低減は、あらゆる技術開発において重要なテーマです。遮熱技術においても、
- 環境配慮型素材: バイオマス由来の原料を用いた繊維やコーティング剤、リサイクル可能な素材の開発。
- 省エネルギー製造プロセス: 素材の製造や加工におけるエネルギー消費量やCO2排出量の削減。
- 長寿命化: 高い耐久性を持ち、長期間にわたって遮熱効果を持続できる製品開発は、廃棄物の削減にも繋がります。 といった視点からの技術革新が不可欠となるでしょう。
まとめ
「遮熱」機能は、単に太陽光を遮るだけでなく、私たちの夏の快適性を大きく向上させ、健康を守る上でも重要な役割を担っています。その原理は科学的根拠に基づいており、評価方法も様々です。業界団体による基準(例:JUPAの生地遮熱性基準)や、検査機関による製品評価(例:QTEC法)、メーカー独自の表示などが存在し、「遮熱率」といった言葉で示される数値もその背景によって異なる場合があるため、消費者の皆様にはその詳細をご確認いただくことが大切です。
アンベル株式会社は、これからもお客様に真に価値のある製品をお届けできるよう、最新の技術動向を注視し、遮熱性能の向上はもちろんのこと、使いやすさ、デザイン性、そして環境への配慮も追求した製品開発に真摯に取り組んでまいります。
この記事が、日傘選びに悩まれている一般消費者の皆様、そして遮熱技術にご関心をお持ちの皆様にとって、少しでもお役に立てれば大変嬉しく思います。