
2025年上半期(1月〜6月)の洋傘に関する貿易統計が発表されました。全体の輸入本数はコロナ禍以前の活況を取り戻しつつある一方で、その内訳を見ると、市場に大きな構造変化が起きていることがうかがえます。
それは「折りたたみ傘の爆発的な増加」と、対照的な「長傘の伸び悩み」です。
今回は最新の貿易統計データを基に、現在の傘市場で何が起きているのかを分析し、その背景と今後のトレンドについて考察します。
データで見る!2025年上半期の傘輸入動向


まず、具体的な数字を見ていきましょう。
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傘の総輸入本数:5,858万本
2024年の5,399万本からさらに数字を伸ばし、市場の回復基調が続いています。
しかし、注目すべきはその内訳です。
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折りたたみ傘の輸入本数:2,404万本
前年の1,834万本から大幅に増加しており、まさに「爆増」と言える状況です。 コロナ禍で落ち込んだ2022年(834万本)と比較すると、実に約3倍近い伸びを見せています。 -
長傘の輸入本数:3,453万本
依然として市場の大きな割合を占めてはいるものの、前年の3,564万本から微減しており、成長が完全に頭打ちになっていることが分かります。
このデータは、消費者の需要が明らかに「長傘」から「折りたたみ傘」へとシフトしていることを示しています。
【考察】なぜ今、「折りたたみ傘」が選ばれるのか?
この顕著な「折りたたみ傘シフト」は、なぜ起きているのでしょうか。いくつかの要因が考えられます。
1. ライフスタイルの変化と気候変動への対応
アフターコロナで人々の外出機会が増える中、ゲリラ豪雨や突発的な天候不良が常態化しています。「いつ雨が降るかわからない」という状況に対応するため、カバンに常備できる携帯性の高い折りたたみ傘の需要が高まっていると考えられます。
2. 「日傘」需要の本格化
近年の猛暑対策として、日傘はもはや女性だけのものではありません。性別を問わず、日差しや熱を避けるための「日傘を持つ」という習慣が浸透しつつあります。晴雨兼用で、必要な時だけ取り出せる折りたたみ傘は、この新しいニーズに最適なアイテムです。
3. 製品の劇的な進化
かつての「重くてかさばる」という折りたたみ傘のイメージは、技術革新によって完全に覆されました。スマートフォンより軽い超軽量モデルや、ワンプッシュで開閉できる自動開閉モデル、強風にも耐える耐風モデルなど、機能性が飛躍的に向上。消費者が「これなら持ちたい」と思える、魅力的な製品が増えたことも大きな要因でしょう。
4. ファッションアイテムとしての定着
機能性だけでなく、デザインやカラーバリエーションが豊富になったことで、折りたたみ傘はファッションアイテムの一つとして認識されるようになりました。その日の服装や気分に合わせて傘を選ぶ、という新しい文化が、複数所有を促し、市場を活性化させている側面もあります。
今後の傘市場の展望
このデータが示すトレンドは、一過性のものではないでしょう。「常に備える」という意識の変化と、高機能・多様化した製品の登場により、折りたたみ傘が市場の主役になっていく流れは、今後さらに加速すると予測されます。
私たちメーカーや企画に携わる者としては、この大きな変化を捉え、消費者が本当に求める「携帯性」「機能性」「デザイン性」を兼ね備えた、価値ある折りたたみ傘を開発していくことが、ますます重要になってきます。
一方で、長傘は単なる雨具としてではなく、特定のライフスタイル(車移動がメインの方、自宅や職場の置き傘など)に特化した付加価値や、ファッションとしての高いデザイン性・高級感が求められる時代になっていくのかもしれません。
<執筆者:辻野義宏>
アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。