傘の耐風試験、角度ごとの意味を読み解く!

「風に強い傘」と聞いて、あなたはどんな傘を思い浮かべますか?

実は、「風に強い」という性能は、1つではありません。風の向きや傘の持ち方によって、傘に求められる「強さ」の種類は変わってきます。その多様な強さを科学的に証明するのが、専門機関で行われる「耐風試験」です。

ここで重要なのは、傘の耐風試験には業界団体定めたような公的な規格基準がないということです 。そのため、試験はメーカーなどの依頼側が「こんな状況を想定してテストしたい」と希望する内容を相談し、それに基づいて実施されています

だからこそ、試験の「角度」や「風速」が非常に重要になります。どの角度で、どれくらいの風を当てて試験を行うかによって、その傘がどんな状況を想定して作られたのか、どんな「強さ」を持っているのかが明らかになるのです。

 

今回は、耐風試験の具体的な方法と、5つの試験角度が明らかにする傘に秘められた異なる「強さ」について、深く掘り下げて解説します。

耐風試験はどのように行われる?

まず、試験の基本的な流れを見てみましょう。

試験の進め方

 

試験は、製品の限界点を見極めるために、風を段階的に強くしていきます。

  1. 設置: 試験対象の傘などを、指定された角度(0°、90°など)で試験機に固定します。

  2. 送風開始: 風速0m/sから送風を開始し、徐々に風速を上げていきます

  3. 観測: 製品の状態(骨のしなり、生地の揺れ、全体の変形など)を注意深く観測します。

  4. 記録: 傘が反り返ったり(おちょこになる)、変形したり、破損したりした時点の風速を正確に記録します。

  5. 最大風速: 途中で破損などがなければ、依頼された最大風速(例:15m/s)まで試験を続けます

風速15m/sはどのくらいの風?

試験で使われる最大風速15m/sは、時速に換算すると54km/hに相当し、気象庁の予報用語では「強い風」に分類されます。これは、台風が接近している時や、発達した低気圧が通過する際に吹くような、非常に強い風です。

  • 人の感覚: 風に向かって歩くのが困難になり、傘を差しているのが極めて難しくなります。
  • 周りの様子: 木全体が大きく揺れ、電線が「ビュービュー」と音を立てて鳴ります。

このレベルの風に耐えられるかは、製品の耐風性能を測る上で一つの重要な基準となります。

角度が明らかにする5つの「強さ」

耐風試験では、傘骨・中棒・縫製などを確認するため、様々な角度でテストが行われます 。それぞれの角度は、傘が持つ異なる種類の「強さ」を明らかにします。

【0°】傘の「基礎強度」― すべての強さの土台

  • シチュエーション: 強風に立ち向かうように、傘を正面(0°)に構えて歩いている状態。

  • 明らかになる強さ: 風の力を傘全体で受け止め、構造を維持する基本的な頑丈さです。

これは、傘のブレない芯の強さを測るテストです。風が傘を上から押さえつける力に対し、骨が内側に折れたり、生地が剥がれたりせず、傘としての基本性能を保てるかを確認します。このテストで示されるのは、傘が持つ「剛性」いう名の強さです。

【45°】日常に寄り添う「実用強度」― バランスの良さ

  • シチュエーション: 斜め前からの風を受けながら歩く、ごく一般的な利用シーン。

  • 明らかになる強さ: 日常の様々な風の状況に対応できる、総合的なバランス感覚です。

特定の方向からだけでなく、不均一な力がかかった時にどう振る舞うかを見ます。骨や関節の一部に負荷が集中しても耐えられる、オールラウンドな性能が試されます。これは、日々の使用で最も頼りになる「順応性」という強さです。

【90°】横風への「安定性」― 予期せぬ衝撃への備え

  • シチュエーション: 体が真横から風を受ける状況で、傘を垂直に差している状態。

  • 明らかになる強さ: 横からの突然の風にあおられず、しっかりと傘を保持できる「安定性」です。

歩いている時、ビルの谷間などから不意に受ける横風を想定したテストです。傘が横からの力で傾いたり、手から弾かれたりしないかを確認します。ここで示されるのは、傘が持つ「不動」の強さと言えるでしょう。

【135°】予期せぬ風をいなす「柔軟性」― 反り返りへの耐性

  • シチュエーション: 背後からの突風で、傘が「おちょこ」になる寸前の、最も負荷がかかる状態。

  • 明らかになる強さ: 風の力を受け流し、反り返りを防ぐ「弾力性」「しなやかさ」です。

傘が最も苦手とする下からの風に対し、ひっくり返らずに耐える力。このテストは、傘の骨がどれだけ柔軟にしなり、力を逃がせるかを明らかにします。ここで示されるのは、硬さとは違う「柔よく剛を制す」という種類の強さです。

【180°】逆境からの「復元力」― 壊れないための最終強度

  • シチュエーション: 突風により、傘が完全にひっくり返ってしまった状態。

  • 明らかになる強さ: 最悪の事態に陥っても、構造が破断せずに元に戻れる「回復力」です。

これは、いわば傘の粘り強さを測るテスト。たとえ反り返ってしまっても、骨が折れたり、関節が壊れたりしなければ、傘はまだ使えます。万が一の事態からのサバイバル能力、その傘が持つ「再起力」を証明します。

まとめ:あなたにとっての「風に強い傘」とは?

このように、耐風試験の5つの角度は、それぞれ異なる種類の「強さ」を明らかにします。

  • : 基礎的な頑丈さ

  • 45°: 日常でのバランス感覚
  • 90°: 横風への安定性

  • 135°: 風をいなす柔軟性

  • 180°: 逆境からの復元力

どの性能を重視するかは、傘を使う人のスタイルや環境によって変わります。ご自身の傘の使い方を思い浮かべながら、これらの「強さ」の種類に着目すると、あなたにとって本当に頼りになる一本を見つけることができるでしょう。


<執筆者:辻野義宏>

アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。