知らないでは済まされない。国民生活センターの警告から学ぶGFRP傘の事故事例とメーカー・販売事業者が果たすべき責任

「軽量」「高弾性」「高耐久」といったメリットから、今や傘の骨の素材として主流となったグラスファイバー(GFRP: ガラス繊維強化プラスチック)。しかし、その利便性の裏に、消費者を危険に晒す重大なリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。

 

国民生活センターには、「グラスファイバー製の傘でケガをした」という、看過できない危害情報が複数寄せられています。これは、単なるクレームではなく、製品の安全性そのものが問われる深刻な問題です。

 

本記事では、国民生活センターが公表した調査結果に基づき、GFRP製傘に潜む「見えない危険」と、私たちメーカー・販売事業者が果たすべき責任、そして今すぐ取り組むべき具体的な安全対策を、専門家の視点も交えて徹底的に解説します。

なぜ今、グラスファイバー(GFRP)製傘の安全性が問われているのか?

急増する「刺傷・切傷」の事故事例

国民生活センターによれば、2020年4月から2025年6月までの約5年間で、GFRPを使用した製品による危害・危険情報が8件も登録されています。その危害内容の多くが「刺傷・切傷」です。

 

これは、GFRPの素材特性に起因します。GFRPはガラス繊維をプラスチックで固めた複合材料ですが、経年劣化や破損によって表面から微細なガラス繊維が露出し、それが消費者の皮膚に刺さることで事故が発生します。

 

軽量で弾力性に富むというメリットの裏に、このような重大なリスクが潜んでいることを、私たち事業者は改めて認識する必要があります。

国民生活センターの調査で明らかになった3つの重大な課題

国民生活センターが市販の傘36銘柄を対象に実施した調査により、事業者が直視すべき3つの課題が浮き彫りになりました。

課題①:新品でも危険?出荷時からガラス繊維が露出している可能性

グラスファイバー骨の製造現場
グラスファイバー骨の製造現場

驚くべきことに、調査対象のうち少なくとも5銘柄において、新品の傘の骨の表面からガラス繊維の付着が確認されました。これは、製品が出荷された時点、つまり消費者が購入して初めて手にする段階で、すでに皮膚に刺さる危険性があったことを示しています。

 

では、なぜ新品の段階でガラス繊維が露出してしまうのでしょうか。

 

まずGFRPという素材自体の製造段階で、ガラス繊維と樹脂の配合比率や加熱時間の不足、あるいは表面の仕上げが不十分であるといった品質の問題が予測されます。もちろん、詳細な製造レシピが公開されている訳ではないため、あくまで可能性の一つですが、これが根本的な原因となっているケースも考えられます。

 

その上で、傘として組み立てる工程においても、以下のような原因が挙げられます。

  • 他部品との接触による摩耗: 傘骨の完成品は、ダボろくろといった他の部品と必ず接触します。これらの部品に鋭利な部分があると、GFRPの表面が摩耗し、ガラス繊維が露出する原因となり得ます。

  • 露先の取り付け方: GFRPに露先を被せる際、先端が適切に処理されていないと、GFRPの先端からガラス繊維が露出する場合があります。特に、折りたたみ傘で多用される亜鉛合金製の露先を「カチコミ式」で取り付ける際の衝撃は、GFRPに微細なクラック(ひび)を発生させるリスクがあります。

これらのリスクを回避するためには、ダボや露先を樹脂製にするといった対策が有効です。私たちアンベルでは、これらの仮説を検証すべく製造工場への調査を進めるとともに、接触部品の形状に至るまで再確認を徹底してまいります。

課題②:使うほどに増大するリスク

GFRP製傘のリスクは、使用過程でさらに増大します。通常使用による湾曲の繰り返しや、骨が折れた際にガラス繊維が露出することは調査でも指摘されていますが、さらに専門家の視点からは紫外線による劣化促進も懸念されます。

 

(あくまで個人的見解ですが)GFRPは紫外線によって劣化が早まる可能性があり、特に透明ビニール傘などを屋外に放置する習慣は、GFRPの劣化を早めている一因かもしれません。

 

また、消費者が直面するもう一つの危険な場面が「廃棄時」です。ある人から「自治体のルールに従い、指定のゴミ袋に入れるために傘を分解したら、手がチクチクした」という報告を聞いたことがあります。安全な廃棄のためには、消費者に傘を分解させないようなゴミ回収のルール作りも、社会的な課題として考えていく必要があるでしょう。

課題③:不十分な表示義務と情報開示の不備

現在の家庭用品品質表示法では、傘の骨の材質を表示する義務はありません。しかし、それ故に多くの製品で情報開示が不十分となり、消費者がリスクを認知できない状況が生まれています。 調査では、実に36銘柄中15銘柄でガラス繊維に関する注意表示がなく、ECサイトに至っては6銘柄中5銘柄で注意表示がありませんでした

 

こうした状況を受け、私たちアンベルでは、法定表示が義務付けられている生地の組成や親骨の長さに加え、新たに生産する商品から「親骨の素材」「受骨の素材」を表示していくことを決定いたしました。また、ECサイトにおいても、すでにご注意いただきたい内容を追記済みです。法令以上の情報開示こそが、お客様の信頼に応える道だと考えています。

 

さらに私たちは、表示の強化だけでなく、製品ラインナップそのものの見直しにも着手しています。現在、アンベルの自社商品は全部で26品番あり、その内8品番にGFRPを部分的に使っています。このうち、今後も継続して生産していくアイテムは1品番としており、グラスファイバーを用いた製品を計画的に減少させていく計画です。

メーカー・販売事業者が今すぐ取り組むべき3つの必須対策

これらの課題を受け、私たち事業者は何をすべきなのでしょうか。国民生活センターからの要望事項に基づき、今すぐ取り組むべき3つの必須対策をまとめました。

対策①:表示の徹底 - 消費者への情報開示と具体的な注意喚起

消費者がリスクを認知し、安全に使用・廃棄できるよう、情報開示を徹底する必要があります。

  • 材質表示の徹底: 下げ札、パッケージ、手元のシールなど、消費者の目に触れるすべての場所にGFRPが使用されていることを明記してください。

  • 具体的な注意表示: 以下のような、けがを予防するための具体的な警告文を分かりやすく表示してください。

    【グラスファイバー使用に関する注意】 ●グラスファイバー製の骨部分には素手で触らないでください。●経年劣化により表面からガラス繊維の先端が露出していることがありますので、お取扱いには十分注意してください。●本製品の骨が折れたり、傷ついたり、切断したりした場合、ガラス繊維の先端が飛び出し怪我をする恐れがあります。素手で触らず、直ちに使用を中止してください。

  • ECサイトでの表示: インターネットで販売する際は、商品ページに上記と同じ材質表示と取扱い上の注意を必ず掲載し、消費者が購入前に確認できるようにしてください。

対策②:法令遵守の再点検 - 家庭用品品質表示法への完全準拠

基本的なことですが、法令遵守が徹底されているか、今一度ご確認ください。家庭用品品質表示法では、洋傘に以下の4項目の表示を義務付けています。

  1. 傘生地の組成

  2. 親骨の長さ

  3. 取扱い上の注意

  4. 表示者名等の付記

これらのすべてが、商品本体および販売サイトに適切に表示されているか、直ちに点検してください。

対策③:製品の抜本的な安全性向上

表示による注意喚起は重要ですが、それだけでは十分ではありません。事業者には、製品そのものの安全性を向上させる努力が求められます。

  • 表面加工の改善: 新品時や使用過程でガラス繊維が露出しにくいよう、表面加工や使用材質を見直す。

  • 代替部材への置き換え: 根本的な対策として、GFRPの使用を避け、より安全な部材への置き換えを検討することも求められます。しかし、これには現実的な課題も存在します。

    • カーボンファイバー: 有力な代替素材ですが、価格がグラスファイバーの10倍から20倍に跳ね上がるため、一般的な傘への採用は現実的ではありません。
    • スチール: 従来素材に戻す方法もありますが、環境負荷の大きいめっき処理の問題や、グラスファイバーほどの弾力性がなく破損しやすいという課題が残ります。

現時点では、コストや品質面から決定的な代替素材はなく、既存のGFRPの安全性をいかに高めるかが、私たち製造・販売事業者の重要な責務となります。

自社製品は大丈夫?今すぐできる安全対策チェックリスト

最後に、自社の取り組み状況を客観的に評価するためのチェックリストをご用意しました。ぜひご活用ください。

項目 確認事項
材質表示 GFRP使用部位を明記した材質表示(下げ札、シール等)は徹底されているか。
注意表示

ガラス繊維に特化した具体的な注意表示が、製品本体およびパッケージにされているか。

法令遵守(現物) 家庭用品品質表示法に基づく法定表示(組成、長さ、注意、表示者名)は全て本体にあるか。
法令遵守(EC) インターネット販売サイト上にも法定表示項目が全て記載されているか。
製品安全性 ガラス繊維の飛び出しを防ぐための表面加工・材質の見直しを検討・実施しているか。
品質管理 新品時におけるガラス繊維の露出がないか、定期的に品質チェックを実施しているか。

まとめ

GFRP製傘の安全性という問題は、もはや「知らなかった」では済まされない、業界全体の喫緊の課題です。

今回ご紹介した「表示の徹底」「法令遵守」「製品の安全性向上」という3つの対策は、お客様の安全を守るための最低限の義務であると同時に、企業の社会的責任を果たし、自社のブランドと信頼を守るための重要な投資でもあります。

この記事をきっかけに、改めて自社製品と表示内容を見直し、お客様に心から安心していただける製品作りに業界全体で取り組んでいきましょう。


【参考資料】

本記事は、独立行政法人国民生活センターが2025年9月17日に発表した報道発表資料を基に作成いたしました。詳細につきましては、以下の原文をご確認ください。