
日傘の裏地は「黒」が当たり前だと思っていませんか?その常識を覆し、機能性はそのままに、デザイン性と「顔映り」の良さを格段に向上させる「PUカラーコーティング」という技法に、今、注目が集まっています。
しかし、その美しいカラーリングの裏には、製造における数々の課題と、それを乗り越えるためのノウハウが隠されています。
この記事では、傘の専門家が、PUカラーコーティングの基本的な知識から、具体的なメリット、そして製造の舞台裏、さらには購入前に知っておきたい注意点まで、徹底的に解説していきます。
そもそも「PUカラーコーティング」とは?
日傘の裏地に新たな選択肢を。機能性と美しさを両立する技術
PUカラーコーティングについてお話しする前に、まず従来の日傘の裏地がなぜ黒いのか、その理由を簡単にご説明します。
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遮光性・UVカット効果: 黒色は光を吸収する性質が最も高く、UVカット効果や遮光性を最大限に高めるために最適とされています。
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地面からの照り返し吸収: アスファルトなどからの強い照り返し。黒い裏地は、この反射光を吸収し、顔や目への負担を和らげる役割も担っています。
このように、黒い裏地には明確な機能的な理由があります。PUカラーコーティングは、この優れた遮光性やUVカット性能を維持したまま、裏地を黒以外の様々なカラーで仕上げることを可能にした特殊な加工技術です。ポリウレタン(Polyurethane)樹脂に顔料を混ぜて生地にコーティングすることで、機能性とデザイン性の両立を実現しています。
PUカラーコーティングがもたらす、2つの嬉しいメリット
では、裏地がカラーになることで、具体的にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。
代表的な2つのポイントをご紹介します。
メリット1:光のレフ板効果で、顔色を自然にトーンアップ!
なんと言っても最大の魅力は、顔映りが明るくなることです。裏地に施された淡い色や明るい色が、地面からの反射光や周囲の光を柔らかく反射し、まるで撮影で使う「レフ板」のような効果を生み出します。これにより、顔周りがふんわりと明るくなり、健康的で自然な表情を引き立ててくれるのです。
「日傘は便利だけど、顔が暗く見えるのが悩み」と感じていた方にこそ、ぜひ一度試していただきたい機能です。
メリット2:ファッション性が格段に向上する「トーンオントーン」の魅力
日傘を単なる日除けの道具ではなく、ファッションアイテムの一部として捉える方にも、PUカラーコーティングはおすすめです。傘の表面の色と裏地の色を同系色でまとめる「トーンオントーン」のコーディネートは、色の濃淡や質感の違いによって、さりげなく洗練された印象を与えます。
例えば、ネイビーの傘の裏地がサックスブルーであったり、ベージュの傘の裏地がアイボリーであったり。傘を開いたときにだけ見える、こだわりのカラーコンビネーション。そんな細部へのこだわりが、日々のコーディネートをより一層楽しいものにしてくれます。
ご購入前に知っておきたい注意点(デメリット)
多くのメリットがあるPUカラーコーティングですが、特にアイボリーやパステルカラーといった明るい色の製品を選ぶ際には、事前に知っておいていただきたい注意点もあります。
明るい色ならではの「汚れ」と「歩留まり」の問題
一つは、製造過程で付着するごくわずかな汚れや、傘骨の潤滑油などが非常に目立ちやすい点です。黒などの濃色であれば全く気にならないようなものでも、お客様の視点からは不良品と判断されてしまうケースも少なくありません。そのため、濃色系のコーティングに比べて検品ではじかれる確率、つまり不良率が高まり、製造側にとっては歩留まりが悪くなるという深刻な課題があります。
さらに、製品がデリケートなため、工場からの納品後、お客様のお手元に届くまでの輸送中に新たな傷や汚れが付いてしまうリスクも常に伴います。こうした背景から、明るい色のPUカラーコーティング傘を完璧な状態でお届けするには、極めて慎重な取り扱いと厳しい品質管理が求められるのです。
美しい色には理由がある。PUカラーコーティング製造の舞台裏

一見すると、ただ色を変えているだけのように思えるかもしれませんが、実はこのPUカラーコーティングには、非常に高度な技術と長年のノウハウが求められます。ここでは、私たちのような傘のOEMメーカーが向き合う、製造現場のリアルな課題を少しだけご紹介します。
多数の要因が絡み合う、デリケートな「色合わせ」の難しさ
PUコーティングで狙い通りの色を出す作業は、実は非常に繊細で困難を極めます。最終的な発色は、下地となるベース生地の色、施すPUコーティングの厚み、その日の気温や湿度、色の調合バランスなど、無数の要素が複雑に絡み合って決まるからです。例えば、同じ色のコーティング剤を使っても、ベースの生地が白か生成りかによって仕上がりは全く異なります。また、コーティングの厚みが少し変わるだけでも、色の濃淡や鮮やかさは変化してしまいます。
特に、生産の多くを担う中国などの海外工場では、こうした細やかなオーダーを100%忠実に、かつ安定して再現してもらうことは決して簡単ではありません。これらの無数の変動要因があるため、デザイナーが指定した通りの色に完璧に合わせるのは、極めて難しいのが現実なのです。
避けることのできない「ロットぶれ」という現実
工業製品において常に課題となるのが、生産時期による品質のばらつき、通称「ロットぶれ」です。先述した通り、PUカラーコーティングの発色は非常にデリケートなため、たとえ同じ色の指示で生産しても、前回の生産分(ロット)と今回の生産分とで、微妙に色味が異なってしまうことは避けられません。正直なところ、生産のたびに全く同じ色を100%再現することは、現在の技術では極めて困難です。
そのため、ロットごとに微妙な色の違いが生じてしまうことは、この技法の特性とも言えます。私たち傘のOEMメーカーの役割は、この避けられない色の差異をいかに管理し、一定の許容範囲内に収めるかという点にあります。それほどまでに、PUカラーコーティングの色管理は繊細で難しい作業なのです。
まとめ
今回は、日傘の新たな可能性を広げる「PUカラーコーティング」について解説しました。 最後に、この記事のポイントを振り返ってみましょう。
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PUカラーコーティングは、高い機能性(遮光・UVカット)とデザイン性を両立した、高度な技法の一つです。
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レフ板効果によって顔色を明るく見せ、ファッションの幅を広げるという大きなメリットがあります。
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明るい色は汚れが目立ちやすく不良率が高まるなど、製造・管理が非常に難しいという側面も持ち合わせています。
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繊細な色合わせやロットぶれといった、製造上の難しい課題と、それを管理するメーカーのノウハウが詰まっています。
これからの日傘選びに、「機能性」や「デザイン」だけでなく、「顔映り」という新しい視点を加えてみませんか?
PUカラーコーティングが施された日傘が、あなたの夏をより快適に、そして、より自分らしく彩ってくれるはずです。
アンベル株式会社では、今回ご紹介したPUカラーコーティング技術を採用した製品の企画・開発も承っております。
この記事の内容や製品、OEMに関するご相談など、ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。