傘を選ぶとき、生地の表面で水を弾く「撥水性(はっすいせい)」を気にする方は多いかもしれません。しかし、私たちが雨に濡れずに済んでいるのは、実は「撥水性」だけのおかげではないことをご存知でしょうか?
本当の主役は、傘生地の「裏側」に施された「防水加工」です。
この記事では、傘の心臓部ともいえる「防水」の技術に焦点を当て、その種類や特徴、そして知っておきたい注意点について、傘のプロが詳しく解説します。
そもそも傘の「防水」とは?「撥水」との決定的な違い
水を弾く「撥水」と、水を通さない「防水」
まず、混同されがちな「撥水」と「防水」の違いを整理しましょう。
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撥水(はっすい)
生地の表面で、水を玉のように弾く機能のこと。フッ素系樹脂などでコーティングされています。これが傘の「第一の防衛線」です。 -
防水(ぼうすい)
生地そのものに水が染み込まないよう、また水を通さないようにする機能のこと。生地の繊維の隙間を樹脂で物理的に塞ぐ「最後の砦」です。
撥水性が機能している間は水滴が転がり落ちますが、撥水性が落ちたり、強い雨にさらされたりすると、この「防水」機能が真価を発揮します。
防水の主役は生地の「裏側」
ほとんどの傘において、この防水機能は生地の裏面(内側)に施されたコーティングやフィルムによって担われています。傘を裏返して、生地の裏側がビニールのようにツルツル(またはしっとり)していれば、それが防水加工です。
防水性能は「耐水度」でチェック
防水性の品質は「耐水度」という数値(単位:mm)で測られます。これは「どれくらいの水圧がかかったら水が染み出すか」を示す数値です。
一般的な傘の耐水度は250mm〜500mm程度と言われています。一方、登山用レインウェアなどでは10,000mmを超えるものもあります。
この差は「設計思想」の違いです。一般的な傘は、第一の防衛線である「撥水性」が機能していることを前提とし、防水層はあくまでそのバックアップとして「250mm」程度の耐水度で設計されています。対照的に10,000mmのギアは、撥水性が失われても防水層だけで嵐に耐える設計思想で作られています。
傘の防水加工、主流の2大技術
傘の裏側に施される防水加工には、主に2つの種類があります。
【雨傘の定番】アクリルコーティング
古くから多くの雨傘で採用されている、最もスタンダードな手法です。アクリル樹脂を生地の裏面に塗布(コーティング)します。
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メリット
低コストで製造できます。 -
デメリット
PUコーティングに比べ耐水度が低いが、傘として使用するには問題はない。
【日傘・高機能傘の主力】PUコーティング(ポリウレタン)
「PU」とはポリウレタンの略です。ポリウレタン樹脂を生地の裏面に塗布する手法で、特に日傘(晴雨兼用傘)や高機能な雨傘の多くに採用されています。
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メリット
高い防水性を出しやすいだけでなく、最大の強みは「ゴムのような伸縮性(弾性)」にあります。生地の動きに合わせて樹脂が柔軟に伸縮するため、折り目での亀裂や疲労に強く、アクリルに比べて耐久性が格段に優れています。 -
デメリット
アクリルに比べ、コストが高くなる傾向があります。
なぜ日傘はPU?遮光・遮熱も兼ねる高機能性
近年、日傘の裏側が真っ黒になっているのをよく見かけますが、その多くがPUコーティングによるものです。
PU(ポリウレタン)系加工のメリット
PUが日傘に多用される理由は、前述の「高い耐久性」と「高い防水性」に加え、「遮光率・遮熱効果」を同時に実現できる点にあります。
PU樹脂は「バインダー(固着剤)」として非常に優秀です。樹脂に黒などの顔料を混ぜて生地に塗布することで、繊維の隙間を塞ぎ、光を通さない「遮光率100%」の生地を作ることができます。裏側が黒いのは、光を最も吸収し、地面からの照り返しも防ぐためです。
より高い防水性を実現する「ボンディング(フィルム貼り)」
PU系の処理には、コーティング(塗る)だけでなく、PUフィルムを生地に貼り合わせる(ボンディング/ラミネート)技術もあります。
これは、あらかじめ均一な品質で製造されたPUフィルムを生地に貼り付ける手法です。コーティングのように塗布ムラやピンホールが発生するリスクがなく、極めて安定的に高い耐水度(10,000mm以上も可能)を実現できるため、高級傘や登山用具に採用されます。
【例外】防水面が「表側」?シルバー傘の秘密
これまで「防水面は裏側」と説明してきましたが、例外も存在します。その代表例が「シルバー傘」です。
ゴルフ傘などで見る「シルバーの傘」
通常は裏側にある防水面を、あえて外側(表側)にしたのがシルバー傘です。
シルバーは太陽光(熱)を反射するとされており、その遮熱効果をねらった意味でも最近シルバーが注目されています。また、そのスポーティーなイメージからゴルフ傘などでもよく活用されています。
シルバー傘にも2種類ある
このシルバーの加工にも、アクリルコーティングをベースにしたものと、PUコーティングをベースにしたものの2種類が存在します。
見た目の特徴として、PUコーティングはやや光沢が強く、アクリルコーティングは光沢が少なめな傾向です。
防水面(表側)の撥水性は?
シルバー傘の表面(防水面)は、水を弾きにくいと感じることが多いはずです。
それもそのはずで、この構造は通常の傘と生地の「表裏が逆」になっています。遮熱効果のある防水面を外側に向けた結果、本来外側にあるべき「撥水加工層」が内側を向いてしまっているのです。
これは構造上のトレードオフ(何かを得るために何かを犠牲にすること)であり、撥水処理が施されていないため、一般的な傘のように水が玉になって転がり落ちることは少ないと言えます。
重要な注意点!撥水スプレーと「シルバー傘」の相性
最後に、非常に重要な注意点です。 これは特に、先ほど紹介した「シルバー傘」に関する内容です。
対象は「アクリルコーティング」のシルバー傘
シルバー傘の表面は防水面(コーティング面)ですが、使っているうちに汚れの付着などで水を弾きにくく(撥水性が落ちたように)感じることがあります。
この時、撥水性を復活させようと市販の撥水スプレーを使いたくなるかもしれませんが、そのシルバー傘が「アクリルコーティング」であった場合、深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。
アクリルと「シリコン系スプレー」の深刻な化学的相互作用に注意
市販の撥水・防水スプレーには「フッ素」が主体で使われていますが、そこに「シリコン」が含まれている場合が多いのです。
この「シリコン」を含むスプレーを、「アクリルコーティング」のシルバー傘の表面(防水面)に直接かけてしまうと、アクリルとシリコンが深刻な化学的相互作用(反応)を引き起こすことがあります。
具体的には、スプレーに含まれるシリコンオイルや溶剤が、硬いはずのアクリルコーティングに浸透し、その構造を変質させてしまう(可塑化させる)のです。
その結果、傘の表面がベタベタと粘着する状態になってしまいます。 一度この状態になると元に戻すのは困難で、ホコリが付着しやすくなったり、開閉時に生地同士がくっついたりして、傘として非常に使いにくくなってしまいます。
シルバー傘の撥水性が落ちたと感じても、それがアクリルコーティングの場合は、シリコン系の撥水スプレーの使用は避けるか、成分表示をよく確認するなど、細心の注意が必要です。
まとめ
今回は、傘の「防水」機能について掘り下げました。
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傘の防水は主に「裏側」の加工が担っており、「撥水」が機能している前提で設計されています。
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伝統的な雨傘は「アクリルコーティング」。
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高機能な日傘や雨傘は「PUコーティング」(高耐久で伸縮性があり、遮光・遮熱性も兼ねる)。
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例外的に「シルバー傘」は防水面が表にあり、遮熱効果が期待できますが、構造上、撥水性は低くなります。
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表面が「アクリルコーティング」のシルバー傘に、「シリコン」を含む撥水スプレーを使うと、表面がベタベタに変質してしまう危険があるため注意が必要です。
傘を選ぶ際は、表面の撥水性だけでなく、裏側の「防水加工」の種類にも注目することで、ご自身の使い方や目的に合った、より良い一本が見つかるはずです。
アンベル(AMVEL)では、高い耐水度と遮光性・遮熱性を両立する高機能な傘も取り扱っています。ご興味のある方は、ぜひオンラインストアもご覧ください。
<執筆者:辻野義宏> アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。
