増える大きめサイズの問い合わせと、OEM開発で陥りやすいサイズ選び

ここ最近、OEMのお客様から「折りたたみ傘で親骨65cmなどの大きめサイズを作りたい」というご相談が少しずつ増えてきました。一昔前までは、折りたたみ傘といえば携帯性重視の55cmがスタンダードでしたが、なぜ今、あえてサイズの大型化が求められているのでしょうか?

 

市場を分析すると、近年の日傘の高機能・大判化トレンドが、雨傘の需要にも変化を与えていることが見えてきます。かつて日傘といえば小ぶりなものが主流でしたが、近年の猛暑により遮光率100%や高い遮熱効果を持つ高機能日傘が爆発的に普及しました。それに伴い、直射日光を広範囲で遮るために、体をすっぽり覆える大きなサイズを選ぶユーザーが急増しています。

 

遮光100%の濃い影に包まれる快適さと、広いカバー範囲に慣れたユーザーにとって、従来のコンパクトな雨傘は小さくて心もとない、濡れそうで不安と感じられるようになってきているのです。

しかし、開発者として注意すべきは、長傘の感覚で折りたたみ傘を単純に大きくしてはいけないという点です。

メーカーと消費者の意識ギャップ:裏返りは許されるか?

大きくしたいというニーズに対し、安易に65cm 6本骨などで企画すると、クレームに直結する大きなリスクがあります。 特に近年深刻なのが、傘が裏返る現象、いわゆるおちょこに対する意識のギャップです。

 

■ メーカー側の視点:裏返るのは壊れないための機能

本来、傘の構造において風で裏返るという挙動は、強風の圧力を受け流し、骨が折れるのを防ぐための安全機構としての側面があります。あえて裏返ることで破損を防ぐ、理にかなった構造とも言えます。

 

■ 消費者側の視点:裏返る=弱くて恥ずかしい

しかし、現代の消費者の受け止め方は異なります。 すぐに裏返るのは骨が弱いからだ、使いにくい不良品だと判断されがちです。さらに、周りの人は平気なのに自分だけ裏返って恥ずかしいという心理的ストレスが非常に強く、これがECサイトなどでの低評価レビューに直結する傾向が強まっています。

 

つまり、折れないために裏返るというメーカーの理屈は、今の消費者には通用しづらくなっているのです。

65cm 6本骨が抱える、構造的な宿命

この裏返り問題において、最もリスクが高いのが65cm 6本骨のような仕様です。長傘なら問題ない65cmというサイズも、折りたたみ傘では構造的な無理が生じてしまうからです。

 

1. 受骨が短いため、支えきれない

ここが長傘との決定的な違いです。 長傘などのスタンダードな傘は、親骨を支える受骨を長く取れるため、テコの原理でしっかり風に耐えられます。 一方、折りたたみ傘はコンパクトにする構造上、どうしても受骨を短くせざるを得ません。

 

支えるパーツである受骨が短いのに、メインの親骨だけを65cmと長くしてしまうと、支点が根元に偏りすぎているため、先端にかかる風の負荷を支えきれない状態になります。

 

2. 結果、簡単に裏返り、クレームになる

受骨による支えが弱い状態で強風を受けると、いとも簡単に反り返ります。 特に65cm 6本骨は、骨の間隔が広く、風を受ける面積も広いため、この現象が顕著です。これがすぐ裏返る、使えないという厳しい評価につながります。

プロが提案する最適解:数字ではなく実質を取る

では、どうすれば大きな傘が欲しいというニーズを満たしつつ、裏返りクレームを回避できる丈夫な傘を作れるでしょうか。

私たちが推奨している一つの解が、親骨62cm 8本骨へのシフトです。

 

■ なぜ62cm 8本骨なのか?

  • 受骨の負担を分散させる 8本骨にすることで、風を受ける負荷を分散させることができます。また、親骨を62cmに抑えることで、短い受骨にかかるテコの原理による負荷を軽減し、反り返りにくい黄金比を作り出せます。
  • 実質的なカバー力は同等 実は、計算上の体を守る有効面積で比較すると、両者はほぼ変わりません。65cm 6本骨のような六角形は骨と骨の間の谷間が深くえぐれていますが、8本骨は円形に近いため、そのえぐれが解消されるからです。
  • 大判日傘ユーザーも納得の安心感 8本骨によるしっかりとしたドーム形状は、ユーザーが求めている包まれるような安心感を提供できます。

課題は重量とスリムさのトレードオフ

ただし、すべてにおいて万能なわけではありません。OEM企画において、明確にしておくべきトレードオフがあります。 特に重要なのが、重さと収納時のサイズ感です。

 

【選択肢A:65cm 6本骨】

  • メリット:軽くてスリム 骨の本数が少ないため、パーツ総重量が軽くなります。また、畳んだ時の生地の重なりが少なく、カバンの隙間に入るスリムさを実現できます。
  • デメリット:風に弱く、裏返りやすい 軽量化と引き換えに、受骨の保持力が不足します。裏返るのは仕様と割り切れるかどうかが鍵ですが、今の市場ではリスクが高いと言えます。
  • 向いている企画: 常に持ち歩くことを想定し、何よりも軽さと携帯性を最優先する場合。

 

【選択肢B:62cm 8本骨】

  • メリット:風に強く、構造が安定している 骨組みがしっかりしており、簡単には裏返らない剛性があります。裏返って恥ずかしい思いをしたくないというユーザー心理に応えるならこちらです。
  • デメリット:重くなり、太くなる 骨が2本増える分、どうしても重量が増します。また、畳んだ時に生地のボリュームが出て、円筒状に太くなりやすい傾向があります。
  • 向いている企画: 昨今の気象に対応する実用品として企画する場合。数十グラムの重さ増よりも、使用時の強さと安心感を選びたい場合。

まとめ:トレンドの裏側にある構造を見極める

大きめの傘が欲しいという問い合わせが増えているからといって、安易にサイズだけを大きくするのは危険です。 その先にある折りたたみ傘特有の受骨の短さという弱点と、裏返りを嫌う消費者心理まで考慮しないと、ブランドの評判を落としかねません。

ユーザーが求めているのは65cmという数字そのものではなく、高機能日傘で体験したような確実に守られる安心感です。その安心感を、構造的な無理なく安全に提供できるのはどのスペックか? 単なるサイズアップではない、工学的な根拠に基づいた最適な一本を、ぜひ一緒に企画しましょう。


<執筆者:辻野義宏> アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。