日傘を新しく購入し、初めて広げる際に生地のシワが気になるという声をいただくことがあります。
特に、裏側が黒い「PUコーティング」や「遮光フィルム」を施した高機能な日傘は、一般的な雨傘に比べてシワが出やすい特性を持っています。
実はこのシワには、「温度による生地の伸縮」や「デザイン」「傘骨の形状」が大きく関係しています。30年以上傘の研究を続けてきた視点から、製造における「型出し」の意図と、製品の特性について解説します。
なぜ日傘にシワが寄りやすいのか?
日傘に使用される「PU生地」は、遮光性を高めるために樹脂を塗り重ねたり、フィルムを貼り合わせたりしているため、普通の雨傘生地に比べて以下の特徴があります。
生地ごとの特性比較
| 特徴 | 普通の雨傘生地 | PU生地(裏面コーティング・フィルム) |
| 質感 | 柔らかく、しなやか | 厚みがあり、コシが強い |
| シワのつきやすさ | 弾性があり戻りやすい | 跡が残りやすい |
| 主な原因 | 生地の重なり | 加工層の物理的な折れ |
加工によって生地に厚みが出るため、一度ついた折り目は、薄い雨傘生地よりも解消されにくい性質があります。また、無地や光沢のある生地は、柄物やマットな質感の生地に比べてシワがより目立ちやすい傾向にあります。
長傘特有の形状とシワの関係
傘の「形」もシワに影響します。特に長傘は、折りたたみ傘に比べてシルエットのカーブが深く設計されています。
この深い曲線に合わせて厚みのあるPU生地を張る際、平面の生地を立体に仕上げる工程で、どうしても生地に負荷がかかる箇所が出てきます。この構造上の特性が、畳んだ際のシワとして現れやすくなる一因です。
湿度と温度による「生地の伸縮」
さらに、PU(ポリウレタン)樹脂には温度によって伸縮する性質があります。
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寒い時期(冬〜春先):
低温下では樹脂が硬くなり、わずかに収縮します。この時期は生地に柔軟性がなくなるため、折り目が深いシワとして残りやすくなります。 -
温かい時期:
気温が上がると樹脂が柔らかくなり、生地に伸びが出てきます。温かい季節に使用を続けることで、シワはある程度自然に馴染んでいきます。
このように、PU生地は環境に応じて状態が変化する素材です。
製造現場における「型出し」の工程
傘の製造工程には、専門用語で「型出し(裁断の型を調整する工程)」があります。
収縮を想定した「ゆるめ」の型出し
PU生地を扱う場合、あらかじめ生地が硬くなることを想定し、多少ゆるめな型出しを行うのが一般的です。
もしこの「ゆるさ」がない設計にしてしまうと、寒い時期に生地が縮んだ際、傘が開きにくくなったり、開閉動作がスムーズにいかなくなったりする場合があるからです。
こうした冬場の動作不良を防ぐために余裕を持たせた型出しを調整しているため、ある程度シワが目立ちやすくなってしまうのは避けられない面があります。 新品時に見られるシワも、一年を通して安定して使用するための設計の結果といえます。
シワがどうしても気になる時のメンテナンス
長期間しまっていた日傘を使い始めるタイミングなどで、どうしてもシワが気になる場合は、以下の方法で多少の改善が見られる場合があります。
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ドライヤーで温める:
生地の裏側(コーティング面)ではなく、表側からドライヤーの温風を軽く当てて生地を温めます。※近づけすぎると生地を傷めるため注意してください。 -
開いた状態で放置する:
生地が温まり、樹脂が柔らかくなった状態で傘を開き、そのまましばらく放置します。
これにより、硬くなっていた樹脂がほぐれ、シワが伸びやすくなります。
※劇的には改善しません。深いシワは取れにくい傾向です。
まとめ:素材の特性を理解した製品選び
高機能なPU生地は、その機能を実現するために素材の特性に合わせた調整が必要な素材です。
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長傘はカーブが深いため、構造上シワが出やすい
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無地や光沢のある生地は、特にシワが目立ちやすい
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気温が上がれば、生地が馴染んでシワは軽減される
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寒い時期の動作不良を防ぐため、あえて「ゆるめ」に型出しされている
日傘を選ぶ際は、単にスペックの数字を見るだけでなく、こうした素材の特性や製造背景を知ることで、より納得感のある1本を選んでいただければ幸いです。
<執筆者:辻野義宏> アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。noteでも執筆中。
