傘の世界で「耐水性能」といえば、JIS L 1092の「A法(低水圧法)」で測るのが当たり前。私自身、長年この「耐水度(耐水圧)」を指標にモノづくりをしてきました。しかし最近、アウトドアギアに詳しいお客様から「なぜ高機能レインウェアやテントと同じB法(高水圧法)で測らないの?」という鋭いご質問をいただくことがあります。
正直なところ、傘一筋の私にとってB法はあまり馴染みのない世界。そこで今回、改めてB法についてネットなどで情報収集を行い、各検査機関の公開情報などを突き合わせて考察した結果、「なぜ傘はA法でなければならないのか」という確信にたどり着きました。
※参照ページ:傘の知識 > 傘の品質 > 耐水度(防水性)
1. 検査機関の基準も、傘は一貫して「A法」
改めて調べてみると、国内の主要な繊維検査機関のホームページを確認しても、傘生地の耐水度(耐水圧)試験として推奨されているのは一貫して「A法(低水圧法)」です。業界全体がA法を採用しているのは、それが傘の使用実態に最も即した試験だからに他なりません。
2. 「空中」で使うか、「圧着」して使うかの違い
耐水度(耐水圧)試験の「A法」と「B法」の最大の違いは、水圧の「かけ方」にあります。
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B法(高水圧法)が必要な道具:
高機能レインウェアやテントのグランドシートなどは、「濡れた地面に膝をつく」「バックパックのストラップで生地を肩に押し付ける」といった、体重による強い圧力(加圧)がかかることを前提としています。 -
A法(低水圧法)が適している道具:
傘は常に「空中」で広げて使います。生地が何かに強く押し付けられることはなく、かかるストレスは主に「空から落ちてくる雨粒が当たる衝撃」です。そのため、水柱の重みでじわじわ圧をかけるA法の方が、傘の実際の使用環境に極めて近いのです。
3. 「水が流れる」傘、水が溜まる「ウェア」
傘には、高機能ウェアにはない決定的な強みがあります。それは「傾斜」と「張り」です。傘の生地は骨によってピンと張られ、常に斜めを向いています。当たった雨粒は、表面の張力と傾斜によって転がり落ちるため、生地の一箇所に強い水圧が留まり続けることがありません。
一方でウェアは、動作によってシワの部分に水が溜まったり、密着した体との間で水が生地に無理やり押し込まれたりします。傘において「B法」のような超高圧な試験を行うことは、いわば「潜水艦でもないのに、深海の厳しい水圧試験を行う」ようなもので、傘の実用的な耐水圧指標としてはA法が最も合理的といえます。
4. これからの傘に求められる「新たな基準」
現在の一般的な品質基準では、雨傘の耐水度は250mm以上 とされています。しかし、一方で昨今はゲリラ豪雨など、これまでにない激しい雨が増えています。これからの傘は、これまでの「漏れない」という最低限の基準を守るだけでは不十分かもしれません。これからの傘は、より高い耐水度を目指していく必要があると私は考えています。
もちろん、持ち運びやすさとのバランスは大切ですが、激変する日本の気象環境において、お客様にさらなる安心感を提供できるスペックを追求していくこと。それが、これからの傘メーカーの使命だと改めて感じています。
まとめ
傘の耐水度(耐水圧)試験がA法なのは、手抜きではなく「傘という道具の役割に最も忠実な試験だから」です。数値の大きさだけでなく、その試験が「どんなシーンを想定しているか」を知ることで、本当に自分に合った道具選びが見えてくるのではないでしょうか。
<執筆者:辻野義宏> アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。noteでも執筆中。
