折りたたみ傘を使い終わって生地をまとめようとしたとき、「あれ、いつもの方向と違う?」と、一瞬手が止まった経験はありませんか?
実は、折りたたみ傘のネームバンド(生地を束ねるベルト)を巻く方向には、「右巻き」と「左巻き」の2種類が存在します。
「たまたま作りが違うだけかな?」と思うかもしれませんが、実はそこには傘の骨の構造と、製造工程における深い理由があるのです。
今回は、普段あまり気に留めることのない「傘の巻き方向」の秘密について、専門家の視点から解説します。
折りたたみ傘の「巻き方向」には2つのパターンがある
折りたたみ傘を手に取って、ハンドルを自分の方に向けて持ってみてください。
生地を束ねてネームバンドを留める際、時計回りに巻くのが「右巻き」、反時計回りに巻くのが「左巻き」です。
<主流はどっち?「左巻き」と「右巻き」の違い>
現在、市場に出回っている折りたたみ傘の圧倒的多数は「左巻き」です。そのため、右巻きの傘を手にすると、多くの人が「なんだか巻きにくい」という違和感を覚えるかもしれません。
私自身、仕事柄サンプルチェックなどで日々膨大な数の傘を手にしていますが、右巻き・左巻きの両方のタイプを日常的に触っているため、どちらの方向に巻くかというのは、実はそれほど気にしたことがありません。しかし、一般的には片方の方向に慣れている方が多いため、不思議に思われることも多いポイントです。
なぜ方向が違うのか?理由は「ネームバンドの縫製位置」にあり
なぜ巻き方向に違いが生まれるのでしょうか。その答えは、ネームバンドを「生地のどちら側に縫い付けるか」という点に隠されています。
<生地の「表」に付けるか「裏」に付けるかの違い>
ネームバンドは通常、傘を広げた状態で縫い付けられます。
- 左巻きになる場合: 生地の「表面」にネームバンドを縫製する。
- 右巻きになる場合: 生地の「裏面」にネームバンドを縫製する。
傘を畳んだとき、ネームバンドの付け根がどちらを向くかによって、自ずと巻く方向が決定されるのです。
傘の「骨の構造」が巻き方向を決めている
では、なぜ「表に縫う傘」と「裏に縫う傘」があるのでしょうか。それは、傘の「畳み方の構造」に由来します。
<一般的な折りたたみ傘(左巻き)>
現在主流の、骨をポキポキ折らずに開閉できるタイプなどは、畳んだときに「生地の表面」が外側に来ます。そのため、ネームバンドも表面に縫製されており、ハンドルを手前にした際に「左巻き」となります。
<特殊な構造の傘(右巻き)>
一方で、折りたたんだ際に「生地の裏側」が表に露出するタイプの傘があります。
- 日本式ミニ(手開きでポキポキ折るタイプ)
- 逆式折りたたみ(濡れた面が内側に入るタイプ)
- ホック式折りたたみ
これらの傘は、畳んだときに裏面が外側に来るため、ネームバンドをあらかじめ「生地の裏側」に縫製しておく必要があります。その結果、ハンドルを手前にすると「右巻き」になるのです。つまり、巻き方向の違いはデザインの好みではなく、「その傘がどういう骨の構造をしているか」で必然的に決まってしまうものなのです。
巻き方向を統一するのは難しい?製造現場の裏話
「使い勝手を考えて、すべて左巻き(あるいは右巻き)に統一できないの?」と思われるかもしれません。しかし、これには製造上のハードルがあります。
現代の傘作りにおいて、ネームバンドの取り付けは、そのほとんどが「コンピューターミシン」で行われています。ミシンでの縫製位置や向きは精密に固定されており、構造上の理由(表裏のどちらに縫うか)に付随して方向が決まってしまうため、容易に反転させることは難しいのが実情です。
まとめ
折りたたみ傘の「巻き方向」の正体、いかがでしたでしょうか。
- 左巻き: 生地表面にバンドを縫い付ける、一般的な構造の傘に多い。
- 右巻き: 日本式ミニや逆式など、畳んだときに裏面が出る構造の傘に多い。
次に折りたたみ傘を畳むとき、もし違和感を感じたら、それはその傘の「骨の構造」が個性的である証拠かもしれません。巻き方向から、その傘の設計思想を読み取ってみるのも、傘の楽しみ方の一つではないでしょうか。
もし、お持ちの傘がどちらの巻き方か気になったら、ぜひ一度チェックしてみてくださいね。
※畳みにくいと感じたときは、天地を逆にしてみてください。
<執筆者:辻野義宏> アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。noteでも執筆中。
