最近、ユーザーやメディア関係者の方々から「丈夫な折りたたみ傘」に関するお問い合わせや取材のご依頼をいただく機会が大変増えています。
その取材の中で、私たちが「実は、傘の『耐風』には公的な品質基準やJIS規格のようなものがないんです」とお話しすると、多くの方が一様に驚かれます。
「耐風性能」「風に強い」とパッケージに書かれていれば、強風のときでも壊れにくい傘だと思ってしまうのは自然なことです。しかし、明確なルールがないからこそ、ユーザーとメーカーの認識にズレが生じやすいという側面があります。
今回は、30年以上にわたり傘の開発を続けてきた視点から、「耐風」という言葉が持つ意味と、本当に安心して使える折りたたみ傘の見極め方についてお伝えします。
傘の「耐風性能」には公的な品質基準がない
結論から申し上げますと、現在の日本の洋傘業界において、「これをクリアすれば耐風傘と名乗ってよい」という統一された公的基準は存在しません。
たとえば、生地の「防水性」や「撥水性」については、検査機関による明確な数値基準が存在し、それを満たさなければ性能を謳うことはできません。しかし、耐風性に関しては各メーカーの自主基準に委ねられているのが現状です。
そのため、他社製品のなかには「柔軟性のあるグラスファイバー(GFRP)の骨を使っている」という理由だけで、具体的な試験を行わずに「耐風傘」と表示しているケースも見受けられます。
「耐風」という言葉がついているからといって、すべてが厳しいテストをクリアした頑丈な傘であるとは限らない、という点を知っておくことが大切です。
「風速〇〇m/sクリア」という表記と検査の前提条件
丈夫な折りたたみ傘を求める方にとって、「壊れにくいこと」は大きなメリットです。傘骨が壊れる原因のほとんどは「風」によるもの。そのため、私たちアンベルを含めた多くのメーカーは、外部の検査機関で耐風試験を実施し、「風速〇〇m/sの風で壊れなかった」という事実を品質の根拠として訴求しています。
しかし、この試験データにも、ユーザーの認識とのギャップが生まれる前提条件があります。
1. 試験での風と、実際の自然の風の違い
メーカーが実施する風洞実験(人工的に風を起こすテスト)などは、以下のような限定された環境のもとで行われます。
- 一方向からのみ風を当てる
- 急激な突風ではなく、徐々に風速を上げていく
- 傘を一定の角度(正面など)でしっかりと固定している
テストは、このようにコントロールされた検査環境での数値です。しかし、これを見たユーザーが、「非常に強い風でも問題ない」というイメージを持ってしまうことがあります。
2. 傘骨が本当に壊れるパターンとは?
実際の街中で吹く自然の風は、検査環境のように一定ではありません。
傘骨が破損してしまう原因の多くは、次のような状況です。
- ビル風のように、下から巻き上がるような風を受けて裏返る(おちょこになる)
- 急な突風により、骨の一部分だけに極端な負荷がかかって曲がってしまう
一方向からの安定した風には耐えられても、予測できない方向からの突風や巻き込み風に対しては、どのような傘であっても、壊れないと言い切ることはできません。
アンベルが実践する「耐風試験」へのアプローチ
私たちアンベルとしては、「風速〇〇m/sをクリアしたから、強い風でも安心です」といった、過大な期待を抱かせるようなアピールはいたしません。
実験で数値を記録したとしても、それはあくまで特定の試験環境下での結果です。基本的には、ユーザーに「普段の生活の中で出会う、やや強い風であれば、問題なく安心して使える目安」として捉えていただきたいと考えています。
激しい暴風雨のなかで使用することは、傘の破損だけでなく、周囲の人にケガをさせてしまうリスクや、ご自身が思わぬ事故に巻き込まれる危険性があるため推奨できません。
より高い安心感を追求したハイエンドモデルへの取り組み
一方で、私たちは「より風への安心感を高めたい」というユーザーの声に応えるため、さらに厳しい環境を想定した『TOUGHNESS®(タフネス)』というモデルも開発しています。
このモデルでは、国内の検査機関で対応できる最大級の風速30m/sの試験を実施しているほか、傘骨が破損しやすいとされる「複数方向からの風(0度、135度、180度)」や、「傘が裏返った状態から元に戻す負荷テストを100回繰り返す」など、実際の使用環境に一歩近づけた検証を行っています。
しかし、このように高い耐久性を追求したモデルであっても、私たちのスタンスは変わりません。これらの数値はあくまで治具に固定した状態での客観的な試験結果であり、強風時の完全な無破損を保証するものではありません。
どのようなモデルであっても、数値のみを誇るのではなく、その前提条件や「強風時の使用を推奨するものではない」という注意点まで含めて定量的にお伝えすることが、ものづくりを行うメーカーとしての責任だと考えています。
長く使える本当に丈夫な傘を選ぶためのポイント
これから折りたたみ傘を選ばれる際は、ただ「耐風」という文字や「風速〇〇m/s」という数字だけを鵜呑みにしないことをおすすめします。
- 「何をもって耐風としているのか」の根拠(試験の方法や角度など)が明記されているか
- グラスファイバー(GFRP)やポリカーボネートなど、柔軟性の高い素材が適切に使われているか
- 万が一裏返った(おちょこになった)ときに、壊れず元に戻る仕様か
このように、製品の紹介ページや取扱説明書に、具体的な試験内容や構造の工夫が説明されているメーカーの製品を選ぶことが、結果として長く愛用できる製品に出会う一番の近道です。
<執筆者:辻野義宏> アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。noteでも執筆中。
