近年の日本は、記録的な猛暑やゲリラ豪雨がすっかり日常化し、気候変動が私たちのライフスタイルに大きな影響を与えています。これに伴い、生活必需品である「傘」の市場にも、これまでにない地殻変動が起きています。
使い捨てのビニール傘から、お気に入りの一本を長く大切に使う行動へのシフト。そして、雨傘と日傘の境界線がなくなる「晴雨兼用化」の波。
本記事では、1980年代から2025年までの傘貿易統計データ、および最新の消費者意識調査を基に、日本の傘市場の「現在地」と「これからの生存戦略」を専門的な視点から分かりやすく解説します。
1. 貿易統計から読み解く傘市場の「現在地」
まずは、日本における傘の輸入総量と金額の推移から、市場全体の大きな潮流を見ていきましょう。
傘の輸入統計推移(2005年〜2025年)
| 暦年 | 輸入数量(本) | 輸入金額(円) | 平均輸入単価(円/本) |
| 2005年 | 128,905,080 本 | 22,771,489,000 円 | 約 176.7 円 |
| 2015年 | 130,929,466 本 | 38,034,012,000 円 | 約 290.5 円 |
| 2025年 | 88,112,485 本 | 43,956,437,000 円 | 約 498.9 円 |
数量は3割減、しかし輸入額は倍増
2000年代半ばから2010年代にかけて、日本には年間1.3億本前後の傘が輸入されていました。しかし、2025年には約8,811万本へと3割以上減少しています。
その一方で、日本国内の輸入金額は227.7億円(2005年)から439.5億円(2025年)へとほぼ倍増しているのです。
平均輸入単価は「約2.8倍」に急騰
この結果、1本あたりの「平均輸入単価」は176.7円から498.9円へと急騰(約2.8倍)しました。この背景には、歴史的な円安や原材料費・人件費の高騰というマクロ要因もありますが、それ以上に消費者の意識が「安さ重視の使い捨て」から「晴雨兼用傘へのシフト」へと明確に変化していることが強く影響しています。
2. 「長傘」から「折りたたみ傘」へ:20年で起きた主役の交代
傘市場の構造変化を最も象徴しているのが、「長傘から折りたたみ傘への主役の交代」です。
長傘と折りたたみ傘の推移(2005年 vs 2025年)
長傘
- 2005年:数量 106,117,131 本(シェア 82.3%) / 平均輸入単価 157.6 円
- 2025年:数量 52,229,746 本(シェア 59.3%) / 平均輸入単価 336.8 円
折りたたみ傘
- 2005年:数量 22,787,949 本(シェア 17.7%) / 平均輸入単価 265.4 円
- 2025年:数量 35,882,739 本(シェア 40.7%) / 平均輸入単価 734.7 円
晴雨兼用傘へのシフトが市場を牽引
かつて長傘が圧倒的多数を占めていた日本市場ですが、2025年には折りたたみ傘の数量シェアが40.7%にまで迫っています。金額ベースで見ると、折りたたみ傘(約263.6億円)が長傘(約175.9億円)を大幅に上回り、市場の売上の主役は完全に折りたたみ傘にシフトしています。
この原動力となっているのが、近年の猛暑に伴う「晴雨兼用傘の常用化」です。
雨をしのぐためだけでなく、強い日差しや熱中症から身を守るために「毎日バッグに傘を入れて持ち歩く」というスタイルが定着しました。
特に、遮光率100%の生地や、100gを切る超軽量カーボンフレームなど、持ち運ぶストレスを極限まで減らした折りたたみ傘がヒットしたことで、折りたたみ傘の平均輸入単価は734.7円(小売価格では3,000円〜6,000円帯がボリュームゾーン)へと大きく跳ね上がっています。
また、これまでは女性が中心だった日傘市場において、「メンズ日傘」の需要も本格化しています。最新のウェザーニュース調査(2026年発表)によると、男性の日傘使用率(「使っている」および「今年使い始めた」の合計)は15%に達しており、2019年の4%から大幅な成長を遂げています。通勤時の暑さを和らげる実用的なギアとして、男性ユーザーの開拓は今後の重要な成長ドライバーです。
3. 生産地の地殻変動:中国からカンボジアへのサプライチェーン分散
製造面においては、製造国(生産拠点)の勢力図に大きな変化が起きています。長らく「世界の工場」として日本の傘のほぼ100%を供給していた中国ですが、そのシェアが急速に分散し始めています。
中国・カンボジアの輸入シェアと単価推移(2005年 vs 2025年)
| 製造国 | 2005年の数量シェア(%) | 2025年の数量シェア(%) | 2025年の平均輸入単価(円) |
| 中国 | 99.9 % | 74.7 % | 約 535.0 円 |
| カンボジア | 0.0 % | 24.2 % | 約 375.9 円 |
カンボジアが「第2の生産拠点」として台頭
2005年時点では、日本に輸入される傘のほぼすべて(99.9%)が中国製でした。しかし、中国国内の人件費高騰や地政学的リスクへの対策として、日本のメーカーは生産拠点を東南アジアへシフトさせてきました。 そのシフト先として急速に成長したのがカンボジアです。
2025年には、日本に輸入される傘の約4本に1本(24.2%)がカンボジア製となっています。カンボジア製の平均輸入単価は375.9円と、中国製の535.0円に対して依然として高いコスト競争力を持っており、技術の集積が進んだことで品質も安定し、極めて重要な供給拠点となっています。
4. 消費者が傘を選ぶ基準:「購買決定要因」の大きな変化
市場が「量から質」へシフトする中で、消費者の購買決定要因(選ぶ基準)も変化しています。
【購買決定要因とは?】
顧客がその商品を購入する際に、最も決定打とする判断基準(要素)のこと。傘選びにおいては、かつては「価格(安さ)」や「その場のデザイン」が主な要素でした。しかし現在、この選ぶ基準に大きな意識変化が起きています。
予算は10年で1.5倍に。「安さ」から「タフ&多機能」へ
ウェザーニュースが実施した2026年の意識調査データを見ると、現代の消費者が求める購買決定要因が浮き彫りになります。
傘選びで重視するポイントの比較(2017年 vs 2026年)
- 「丈夫さ」:45%(2017年) → 51%(2026年)
- 「安さ」 :16%(2017年) → 11%(2026年)
出せる予算の上昇推移(2014年 vs 2026年)
- 2014年:平均 2,227 円
- 2026年:平均 3,272 円
このように、ゲリラ豪雨や突風へのリスク意識から、「壊れにくさ(タフさ)」を求める声が過半数を超えています。また、予算の許容額が10年余りで1,000円以上(約1.5倍)アップしていることからも、「安価な消耗品」から「機能性を伴う実用ギア」へと傘のポジションが格上げされていることが分かります。
傘専業メーカーと大手アパレル・アウトドアブランドの競争
この魅力的な「晴雨兼用折りたたみ傘」の市場には、従来の傘専業メーカーだけでなく、強力な異業種プレイヤーも参入しています。
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大手アパレル専門店:
全国的な店舗網と「高いコストパフォーマンス」を武器に、ベーシックなシンプルデザインの折りたたみ傘を、定番の日常雑貨として手堅く提供しています。
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本格アウトドアブランド:
登山用スペックを日常仕様に落とし込んだ「極限の軽量性と耐久性」をアピール。ブランドの持つ機能的でタフなイメージが、ギア(道具)としての所有欲を刺激し、こだわりを持つビジネス層から高い支持を得ています。
これに対し、傘専業メーカーは「デザインの多様性」や「一振りで水滴が切れる超撥水技術」など、より専門的なテクノロジー開発、さらには小売店の売場に合わせた商品・ブランドの企画提案によって差別化を図っています。
5. まとめ:変化を捉えた企業が未来のスタンダードを作る
最新の貿易統計データが示す通り、日本の傘市場は「購入本数の減少」と「単価の上昇(高付加価値化)」という、明確なプレミアム移行期にあります。
- 長傘から「折りたたみ(晴雨兼用)傘」へのシフト
- 中国から「カンボジア」へのサプライチェーン最適化
- 「軽さ・遮光性・耐久性」といった購買決定要因の高度化
これらの市場変化をいち早く捉え、確かな技術力と柔軟な展開、そして多様な販路開拓に投資できる企業こそが、これからの傘市場で選ばれ続けるでしょう。
アンベル株式会社では、長年培ってきた「傘の専門知識」と「最先端の機能開発力」を活かし、耐久性・軽量性に極限までこだわった高機能傘のOEM/ODM開発や製品づくりを行っています。高機能傘の開発に関心をお持ちの企業様や、製品づくりについてのご相談など、まずはお気軽にお問い合わせください。
<執筆者:辻野義宏> アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。noteでも執筆中。
