傘の知識は、まるで身体の構造を学ぶように奥深いものです。その中でも、今回スポットを当てるのは、まさに傘の「背骨」とも言える中棒(シャフト)です。一見地味なパーツに思えるかもしれませんが、実は傘の強度、安定性、そして使い心地を決定づける重要な役割を担っています。
中棒は、傘のすべての構成要素を繋ぎとめる、文字通り中心的な存在です。
構造の要: 親骨、受骨、そして手元(ハンドル)を連結し、傘の骨組み全体を支えています。中棒がなければ、傘はただのバラバラの部品の集まりになってしまいます。
強度と安定性: 風が強い日でも傘がひっくり返らないように、中棒がしっかりと全体を支えます。中棒の素材や太さが、傘全体の耐久性や安定性を大きく左右します。
スムーズな開閉: 傘を開いたり閉じたりする際の動きも、中棒がスムーズに伸縮したり、親骨と連動したりすることで実現します。この動きがスムーズでなければ、傘の使い心地は著しく低下してしまいます。
つまり、中棒は傘の機能性を保つ上で不可欠な、まさに傘の心臓部と言えるでしょう。
中棒の素材は、傘の性能や価格に大きく影響します。ここでは、代表的な素材とその特徴を詳しく見ていきましょう。
1. スチール(鉄を主成分とする素材)
昔から使われている定番素材です。
2. アルミニウム合金(アルミニウムを主成分とする、軽くて錆びにくい合金)
軽量化と強度を両立させた素材です。
3. グラスファイバー(GFRP:ガラス繊維を樹脂で固めた複合素材)
近年、多くの傘に採用されている高性能素材です。
4. カーボンファイバー(CFRP:炭素繊維を樹脂で固めた複合素材)
航空機やF1マシンにも使われる、最先端の素材です。
5. 木材
天然素材ならではの温かみと高級感を演出します。
中棒の構造や太さの違いは、傘の使い勝手に直結します。
1. 構造による分類
中棒には、主に一本式と伸縮式の2種類があります。
2. 太さと肉厚が強度を左右する
中棒の太さや、パイプの壁の厚さ(肉厚)は、傘の強度と安定性を決める重要な要素です。
一般的に、大型の長傘や耐風性を重視する傘には太い中棒が使われます。一方、軽量化を目的とする傘では、細い中棒が選ばれることが多いです。
表で示された目安は、あくまで一般的な基準です。例えば、スチール製の長傘で親骨の長さが55cmを超える場合、外径10mm以上で肉厚0.40mm以上が推奨されています。これは、傘のサイズが大きくなるほど、中棒にかかる負担も大きくなるため、より高い強度が求められるからです。
種類 | 外径 | 肉厚 | |
スチール(鉄) |
親骨の長さが55cmまで | 10mm未満 | 0.45mm以上 |
10mm以上 | 0.40mm以上 | ||
親骨の長さが55cm〜70cmまで | 10mm未満 | 0.50mm以上 | |
10mm以上 | 0.40mm以上 | ||
アルミニウム合金 | 8mm | 1.00mm以上 | |
10mm | 0.65mm以上 |
種類 | 外径 | 肉厚 | |
スチール(鉄) |
--- | 0.40mm以上 | |
アルミニウム合金 | 10mm未満 | 0.50mm以上 | |
10mm以上 | 0.45mm以上 |
※許容誤差:外径の呼び寸法マイナス0.25mm/肉厚マイナス0.02mm
中棒の品質を担保するためには、様々な検査が行われます。これらの試験をクリアすることで、安全で耐久性の高い傘が生まれます。
これらの検査は、ユーザーが傘を安全に、そして快適に使えるようにするために欠かせない工程です。
中棒には、傘の機能性を高めるための小さな工夫が凝らされています。
このように、中棒は単なる棒ではなく、傘全体の性能を支える精密なパーツの集合体なのです。
アンベル株式会社では、お客様に安心して傘をお使いいただくために、素材選びから構造設計に至るまで、細部にまでこだわって製品開発を行っています。