中棒(シャフト)

傘の心臓部!中棒(シャフト)の深掘りガイド

傘の知識は、まるで身体の構造を学ぶように奥深いものです。その中でも、今回スポットを当てるのは、まさに傘の「背骨」とも言える中棒(シャフト)です。一見地味なパーツに思えるかもしれませんが、実は傘の強度、安定性、そして使い心地を決定づける重要な役割を担っています。


中棒の役割と重要性

中棒は、傘のすべての構成要素を繋ぎとめる、文字通り中心的な存在です。

  • 構造の要: 親骨受骨、そして手元(ハンドル)を連結し、傘の骨組み全体を支えています。中棒がなければ、傘はただのバラバラの部品の集まりになってしまいます。

  • 強度と安定性: 風が強い日でも傘がひっくり返らないように、中棒がしっかりと全体を支えます。中棒の素材や太さが、傘全体の耐久性や安定性を大きく左右します。

  • スムーズな開閉: 傘を開いたり閉じたりする際の動きも、中棒がスムーズに伸縮したり、親骨と連動したりすることで実現します。この動きがスムーズでなければ、傘の使い心地は著しく低下してしまいます。

つまり、中棒は傘の機能性を保つ上で不可欠な、まさに傘の心臓部と言えるでしょう。


中棒を構成する主な素材とその特徴

中棒 シャフト 傘

中棒の素材は、傘の性能や価格に大きく影響します。ここでは、代表的な素材とその特徴を詳しく見ていきましょう。

 

1. スチール(鉄を主成分とする素材)

昔から使われている定番素材です。

  • メリット: 優れた強度を持ち、価格も手頃です。頑丈な長傘によく使われます。
  • デメリット: 水に濡れると錆びやすいのが大きな難点です。そのため、表面にメッキ加工が施されていることが一般的です。重さがあるため、軽量化が求められる折りたたみ傘にはあまり向いていません。

 

2. アルミニウム合金(アルミニウムを主成分とする、軽くて錆びにくい合金

軽量化と強度を両立させた素材です。

  • メリット: スチールに比べて非常に軽く、錆びにくいのが特徴です。持ち運びやすさを重視する折りたたみ傘や、女性向けの軽量長傘に多く採用されています。
  • デメリット: スチールほどの強度はないため、強い衝撃には弱い場合があります。

 

3. グラスファイバー(GFRP:ガラス繊維を樹脂で固めた複合素材

近年、多くの傘に採用されている高性能素材です。

  • メリット: 非常に軽くて強度が高く、さらに柔軟性も兼ね備えています。風を受けてもしなることで折れにくく、強風に強い傘として人気があります。錆びる心配もありません。
  • デメリット: スチールやアルミニウム合金に比べると、製造コストがやや高めです。

 

4. カーボンファイバー(CFRP:炭素繊維を樹脂で固めた複合素材

航空機やF1マシンにも使われる、最先端の素材です。

  • メリット: グラスファイバーを上回る軽さと強度を誇ります。超軽量でありながら驚くほど丈夫で、高級傘の代名詞とも言えます。
  • デメリット: 非常に高価なため、一般向けの傘にはあまり使われません。軽さと耐久性を極めた最高級モデルに限定されます。

 

5. 木材

天然素材ならではの温かみと高級感を演出します。

  • メリット: 独特の風合いと手触りが魅力です。昔ながらの傘や、デザイン性を重視した傘に用いられます。
  • デメリット: 湿気や乾燥に弱く、ひび割れや反りが発生することがあります。また、他の素材に比べて太くなりがちです。

中棒の構造と太さがもたらす違い

中棒の構造や太さの違いは、傘の使い勝手に直結します。

 

1. 構造による分類

中棒には、主に一本式と伸縮式の2種類があります。

  • 一本式: 主に長傘に使われる、一本の棒でできたシンプルな構造です。安定感があり、丈夫なのが特徴です。
  • 伸縮式: 複数のパイプが重なり合ってできており、傘を閉じると短く縮みます。折りたたみ傘のコンパクトな収納を実現する、必須の構造です。

 

2. 太さと肉厚が強度を左右する

中棒の太さや、パイプの壁の厚さ(肉厚)は、傘の強度と安定性を決める重要な要素です。

  • 太さ: 中棒が太いほど強度と安定性が増しますが、その分重さも増します。
  • 肉厚: 肉厚が厚いほど、より頑丈になります。

一般的に、大型の長傘や耐風性を重視する傘には太い中棒が使われます。一方、軽量化を目的とする傘では、細い中棒が選ばれることが多いです。

 

表で示された目安は、あくまで一般的な基準です。例えば、スチール製の長傘で親骨の長さが55cmを超える場合、外径10mm以上で肉厚0.40mm以上が推奨されています。これは、傘のサイズが大きくなるほど、中棒にかかる負担も大きくなるため、より高い強度が求められるからです。

【スチール及びアルミニウム合金中棒の外径と肉厚目安】長傘

種類 外径 肉厚

スチール(鉄)

親骨の長さが55cmまで 10mm未満  0.45mm以上
10mm以上 0.40mm以上
親骨の長さが55cm〜70cmまで 10mm未満  0.50mm以上
10mm以上 0.40mm以上
アルミニウム合金 8mm 1.00mm以上
10mm 0.65mm以上

【スチール及びアルミニウム合金中棒の外径と肉厚目安】折りたたみ傘

種類 外径 肉厚

スチール(鉄)

--- 0.40mm以上
アルミニウム合金 10mm未満 0.50mm以上
10mm以上 0.45mm以上

※許容誤差:外径の呼び寸法マイナス0.25mm/肉厚マイナス0.02mm


中棒の品質を測る検査項目

中棒の品質を担保するためには、様々な検査が行われます。これらの試験をクリアすることで、安全で耐久性の高い傘が生まれます。

  • 中棒の曲げ強度(長傘のみ): 傘に強い力が加わった際に、中棒が折れたり曲がったりしないかを確認する試験です。長傘は特に中棒にかかる負担が大きいため、この検査は重要です。
  • 中棒と手元の取付強度: 傘が開閉する際や、地面に突いた際などに、手元が中棒から外れないかを確認する試験です。
  • 中棒と上ろくろの取付強度: 傘を開く際に、中棒と上ろくろ(親骨を束ねる部品)の接続部分に強い力が加わります。この接続部分が外れないかを確認する試験です。
  • 中棒の引張強度(折傘のみ): 折りたたみ傘は開閉時に中棒が伸縮するため、中棒が引っ張られる力に耐えられるかを確認する試験です。
  • 回転トルク試験: 傘を開閉する際や、水滴を払うために傘を振る動作など、中棒に回転力が加わったときの接続部分の強度と耐久性を確認する試験です。中棒と手元、または中棒とろくろなどの接続部が、繰り返しの回転に耐えられるかを検証することで、傘全体の安定性を保証します。

これらの検査は、ユーザーが傘を安全に、そして快適に使えるようにするために欠かせない工程です。


知っておきたい中棒の小さな豆知識

中棒には、傘の機能性を高めるための小さな工夫が凝らされています。

  • はじき: 傘を開いた時にカチッとロックされる小さな金具のことで、中棒に取り付けられています。傘を安定させるだけでなく、閉じる際にはこの「はじき」を押すことでロックが解除されます。
  • ダボ: 中棒と親骨をつなぐ関節部分を指します。親骨がスムーズに開閉するためには、このダボが適切に取り付けられていることが不可欠です。

このように、中棒は単なる棒ではなく、傘全体の性能を支える精密なパーツの集合体なのです。

 

アンベル株式会社では、お客様に安心して傘をお使いいただくために、素材選びから構造設計に至るまで、細部にまでこだわって製品開発を行っています。

 

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