雨の日に傘をさしたとき、もし傘の内側に雨水が漏れてきたら、それは傘の機能が失われていることになります。傘にとって、雨水を完全に防ぐことは最も重要な役割の一つです。この防水性能を客観的に評価するために行われるのが、漏水性(耐漏水性)試験です。
傘生地そのものに撥水や防水加工が施されていても、傘を構成する縫製部などから水が漏れる可能性があります。この記事では、安心して使える傘がどのようにしてこの品質を保証しているのか、その品質試験と評価基準について詳しく見ていきましょう。
傘をさしたときに内部に水が漏れないことは、当然の性能だと考えられがちです。しかし、傘は複数の生地を縫い合わせ、骨組みに固定して作られるため、以下のような箇所から水が漏れるリスクがあります。
縫製部: 傘の「こま」同士を縫い合わせる部分。縫い目の隙間から水が浸入する可能性があります。
頂点部分: 石突、陣笠部分。隙間があると水が侵入する原因になります。さらに中棒を伝って水が侵入してくることを伝水と呼びます。
漏水性試験は、これらの弱点となる可能性のある箇所から水が漏れないかを確認し、傘全体の防水性能を保証するために不可欠な品質管理のプロセスです。
漏水性試験は、JIS(日本産業規格)に基づいて、実際の降雨を再現した環境で行われます。
この試験には、JIS S 4020:1994という規格が用いられます。以下に具体的な手順を解説します。
傘の設置: 傘を広げた状態で、人工降雨発生装置の真下に設置し、手元を固定します。これにより、傘が自然な状態で雨を受ける状況を再現します。
人工降雨: スプレーノズルから、1時間あたり20±2mmという、やや強い雨量に相当する人工雨を、20分間降らせ続けます。
観察: 20分間の降雨後、すぐに傘を内側から観察し、水滴の浸入や付着がないかを確認します。この際、特に縫製部や骨組みの接合部など、水が浸入しやすい箇所を重点的にチェックします。
漏水性試験には、厳格な判定基準が設けられています。
合格基準: 傘の内部に水の浸入がなく、傘の内側に付着した水滴が15滴以下であること。 この基準をクリアすることで、製品は日常的な雨の使用に耐えうる防水性能を持っていると判断されます。
不合格基準: 傘の内部に水が浸入したり、水滴が16滴以上付着したりした場合は不合格となります。不合格となった場合は、原因を特定し、製造工程や素材、構造を改善する必要があります。
高い耐漏水性を実現するために、様々な工夫が傘に凝らされています。
縫製技術: 複数のこまを縫い合わせる際には、縫い目の隙間をできるだけ小さくする緻密な縫製技術が求められます。
シームテープ加工: 縫い目の裏側にシームテープと呼ばれる防水テープを貼る加工です。縫い目からの水の浸入を完全に防ぐことができます。ただし、この加工は非常に特殊で、高機能なアウトドア用品などに使われることがほとんどです。
超音波溶着(超音波ウェルダー): こま(小間)とこまを取り付ける際に、縫製ではなく超音波を使って生地を溶着させる方法です。これにより、縫い目自体をなくし、水の侵入経路を断つことができます。ビニール傘の生産方法としても知られています。
はっ水加工: 生地表面に特殊な加工を施し、水滴をコロコロと弾くようにします。これにより、雨が傘布に留まる時間が短くなり、水が浸入するリスクを低減できます。
近年の気候変動により、ゲリラ豪雨と呼ばれる短時間に極めて強い雨が降ることが増えています。では、JIS規格で定められた漏水性基準は、こうした激しい雨にも対応できるのでしょうか?
JIS基準: 1時間あたり20±2mmの雨量は、「やや強い雨」に分類されます。これは、一般的な雨の日の使用を想定した基準であり、ほとんどの傘がこの試験に合格するように設計されています。
ゲリラ豪雨: ゲリラ豪雨では、1時間あたり50mm、場合によっては80mmを超える雨が降ることも珍しくありません。これは、JIS規格の基準を大幅に上回る雨量です。
したがって、JIS規格の漏水性試験に合格した傘であっても、ゲリラ豪雨のような極めて強い雨が降った場合には、傘の縫製部や接合部から雨水がわずかに漏れてくる可能性があります。 これは、傘の性能が低いのではなく、想定された使用環境を超える負荷がかかっているためです。
この漏水性試験により、傘の防水性能を客観的に評価し、お客様に安心してご使用いただける製品を提供できるよう努めています。
▶ もし、傘についてさらに詳しく知りたいことがあれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。