雨の日に傘をさしたとき、水滴が玉のようにコロコロと転がり落ちていく。この爽快な体験を可能にしているのが、傘生地の撥水性(はっすいせい)です。撥水とは、生地表面が水をはじく性質を指します。これは、生地そのものが水を内部に浸透させない耐水性とは異なる重要な性能です。ここでは、傘生地の撥水性がどのように評価され、品質が保証されているのか、その秘密に迫ります。
傘生地の撥水性を客観的に評価するために、世界中で様々な試験方法が用いられています。ここでは、日本で広く使われているJIS規格と、国際的な基準であるAATCC規格の試験方法について解説します。
これは、日本産業規格(JIS)に定められた試験方法です。
試験方法:
約200mm×200mmの生地の試験片を3枚準備し、しわがないように固定枠に取り付けます。
試験片を撥水度試験装置に設置します。
漏斗から250mlの水を約25~30秒かけて試験片に散布します。
試験後、余分な水滴を軽く叩いて落とします。
最後に、試験片の湿潤状態を5つの比較見本と比較し、級数で判定します。
判定基準(抜粋):
5級: 表面に湿潤や水滴の付着がない。
4級: 表面は湿潤しないが、小さな水滴が付着している。
3級: 表面が小さな個々の水滴上で湿潤している。
一般的に、傘生地としては3級以上が品質基準とされています。
AATCC(American Association of Textile Chemists and Colorists)が定めた、国際的に用いられる試験方法です。
試験方法:
試験片を規定のサイズに切り出し、コンディショニング(標準状態の温度と湿度で調整)します。
試験片をリングに固定し、規定の高さから一定量の水をスプレーで噴霧します。
スプレー後、直ちに試験片の水滴の状態を標準写真と比較し、撥水等級を判定します。
判定基準(抜粋):
100点: 表面に湿潤及び水滴の付着がない。
90点: わずかにランダムな水付着、または濡れが認められる。
80点: スプレー点に濡れが認められる。
撥水性と耐水性(防水性)は、混同されやすい言葉ですが、その機能は明確に異なります。
撥水性: 生地表面で水をはじき、水滴を弾く性質です。これは、生地の繊維そのものに撥水剤をコーティングすることで得られます。
耐水性(防水性): 生地そのものが水を内部に浸透させない性質です。これは、生地の裏面にポリウレタンなどの防水コーティングをすることで実現されます。他にアクリルコーティング、シリコーンコーティングなどがある。
撥水加工が施された傘は、水滴をコロコロと弾くため、傘を閉じるときに水滴が残りにくく、快適です。一方、耐水性の高い傘は、生地が水を完全に通さないため、豪雨の中でも安心感があります。優れた傘は、この両方の性能を高いレベルで兼ね備えています。
高い撥水性を実現するためには、様々な技術が用いられています。
高密度織物: 繊維の隙間が少ない高密度の生地は、それ自体が水を浸透させにくく、高い撥水性を発揮します。
撥水加工剤: 生地に撥水加工剤を施すことで、繊維表面の張力を下げ、水滴が生地に留まるのを防ぎます。
撥水加工の持続性: 撥水加工は、使用や洗濯を繰り返すことで徐々に効果が薄れていきます。最近では、耐久性の高い撥水加工剤や、ナノレベルで繊維をコーティングする技術も開発されています。
撥水性は、永久的なものではありません。日々の使用や経年劣化によって、その効果は徐々に低下します。撥水性を長持ちさせるためには、以下のようなメンテナンスが有効です。
定期的なお手入れ: 傘を使用後は、必ず水滴を払い落とし、陰干しで完全に乾燥させましょう。
汚れの除去: 泥やほこりなどの汚れは、撥水性を低下させる原因となります。中性洗剤を薄めたぬるま湯で優しく拭き、しっかりとすすいで乾燥させましょう。
再加工: 撥水効果が弱くなったと感じたら、市販の撥水スプレーで再加工するのも一つの方法です。
アンベル株式会社では、お客様に安心して傘をご使用いただくために、厳格な撥水度試験を実施し、品質の高い製品を提供しています。